オンライン接客の“プロ販売職”が登場する時代は目前!?人の力を活かすデジタルの可能性:アドテック東京2017 (後編)【2017年10月公開記事】
オンライン・オフラインをつなぐコマースプロデューサーかつECビジネス周りを伝える・応援する川添 隆(Twitter等のSNS一覧)です。
旧ブログからのお引越し記事として転載しております。
※オリジナル公開日:2017年10月24日
現在オンライン接客は一般化しつつあります。本記事は2017年時点での内容ですが、これからオンラン接客を強化したいと考える企業の方々の参考になればと思います。
前編の記事では1のオンライン接客の意義と、2のパルコ社・アダストリア社の取り組みに関するディスカッションを掲載しています。
オンライン接客の本質とその施策のディスカッション後編です。
2’’.事例の裏話をこっそり教えて(ビームス編)
(川添):オウンドメディアへ一元化されていること、スタッフのコンテンツを中心にメディアコマースのようにされていること。これらにどんな背景にがあるんでしょうか?
(矢嶋):弊社は40年前に原宿の一リアル店舗から始まった洋服屋です。現在では全国で100数十店舗に拡大しているのですが、根幹は物作りのメーカーではなく、世界中のブランドから良いものを仕入れて日本の消費者に販売する所謂セレクトショップです。そのため最大の価値は、店頭の販売員の力と何をセレクトしたかという目利きの部分なのです。
これをデジタルで最大限に生かそうと思い自社を振り返ると、25もレーベルがあってドメインがバラバラ。一方、店舗は色々なレーベルの商品がそれぞれミックスされています。お客様はお店に行った印象と、レーベル側の「うちのブランドの世界観はこうだ」、というのが一致しないという課題がありました。そこで、デジタルの分野から情報の整理とサイトのドメインを一元化させようという構想を4、5年前から考えていました。あと、資料のDMPというのは、いわゆるDMPではなく、デジタル・マーケティングのためのプラットフォームという意味で使っています。
(田中):ビームスさんのサイトは、外部のモデルのような人ではなく、店頭のスタッフさんがメインに出ていますが、どのように管理されているのですか?データをどのように評価しているのか。また、ここまで作っている企業は他にないと感じますが、どうやって実現しているのでしょうか?
(矢嶋):ビームスのサイトの「ビームススタッフ」の横に(1,162 ※)と表示されています。うちのスタッフの1,162人がアカウントを持って、この中でオンライン接客をしているということになります。弊社は日本全国にショップがあり、ビームス愛に溢れた個性的な販売員がいるので、オンラインを通じてお客様との接点を拡大させたい、という思いでやっています。田中さんが質問された裏側についてですが、このサイト自体、スクラッチでかなり作っていて、こういった機能をセットで提供してくれる会社様はほとんどないです。
※2017年10月18日時点
例えば、この店舗の彼女は今、スタイリングというところにフォーカスが当たっていて、4つの画像が出ています。その隣にフォトログという画像コンテンツがあり、商品を紹介してます。こういった形を一から作るということがしたかったので、サイトのフルリニューアルと同時に、先ほどスライドにあったフェーズ1、フェーズ1を経てここに至っているということです。
(川添):矢嶋さんのところもマーケティングオートメーションを入れられていて、その辺は会場の皆さんも関心があると思います。人が大事だよねと言いながら、「マーケティングオートメーションのような“自動化”も使うのかよ」みたいな感じにも見受けられましたが、どのように捉えられていますか?
(矢嶋):全ての情報を一元化した私たちのオウンドメディアに来られるお客様は、極論すれば新規客とリピート客の2種類しかいません。そう分けた時に、どのように情報を出し分けるのか。更に、ビームスとの関係性の長さがリピート客との間には生まれてきます。その中で、ビームスは非常に膨大な情報量があるので、一元的にこれ、という情報の出し方をすると、お客様が情報にたどり着くところが深くなってしまいます。そこをうまく制御するために、ゲートウェイの段階でそう言ったツールが各お客様にあった情報の出し分けができる、そこまでいくのが、ツールの使い方として今考えているところです。
3.どのようにWEB接客を売上・利益に直結されるか? KPIを設定するか?
(川添):実際に、オンライン接客は売上につながっているのか、伸びているのかをお聞きします。林さんのところは以前ECサイトを運営されていて、今の体制、カエルパルコとポケットパルコに移行されましたよね。実際にECをされていた時と、現時点の取り組みというのは利益貢献は違いますか?
(林):そうですね。我々が現在やっているプラットフォームで言うと、店頭でスタッフの皆さんがブログを発信されて、それをきっかけに見た方の来店につながると言う効果を期待しているのがアプリのポケットパルコです。そこからリンクをして、来店しなくてもネットでも買えますよ、もしくは店頭で取り置きができますよと言うカエルパルコと言うサービスを運用しています。
全て、店頭のショップさんの売上になります。それを使ってたくさん売上を上げてもらうと、我々は歩合でお家賃をいただいているのでwin-winの関係なのです。現在カエルパルコは300のショップが使ってくださっていて、一番売上規模が大きかったテナントさんは、その店頭売上の約1/4がカエルパルコ経由で作られていると言う数字が出ています。従前の店頭の売上を相殺している訳ではなく、商圏外エリアからのご注文や、4割は店舗の営業時間外の注文なので、そう言う意味ではかなりプラスになっていると捉えています。
(川添):矢嶋さんのところも、一人の販売員のリアルの個人売上がいくらで、WEB経由売上がいくらで、と言うのを見られているのですか?
(矢嶋):はい。わたしのところは、一人一人の一投稿、一記事に対していくら直接コンバージョンに至ったか、間接コンバージョンに至ったかもデータが出ます。
(川添):先ほどの「店舗売上の約1/4がWEB経由」というのは高いと思いますか?
(矢嶋):私たちの場合は店舗としての指標は取っていませんが、スタッフが投稿した一記事一記事、1,100数十名の合算で、スタイリング、ブログやフォトログも合わせると、自社EC売上のおよそ5割から6割くらいがオンライン接客による売上となります。
(川添):田中さんのところも店舗やスタッフが多いと思いますけど、お二方の取り組みに対して、同じような取り組みは現時点であるのですか?
(田中):現時点では、そこまでの取組みはないですね。ただ、接客するにしても、会員か会員じゃないか、IDを持っているかIDを持っていないか。IDを持っている人の方が貢献率は高いですよね。ECとリアル店舗の両方を使ってくれる人の方が、売上は高いという当然のデータがあります。
矢嶋さんにお聞きしたいですが、物をめがけて買いに来られる方よりも、スタッフのオンライン接客を通じて購入されるお客様の方がリピートは高いのですか?
(矢嶋):リピートでは見ていないですが、それはコンバージョン率も確実に違います。イメージコンテンツを見た後のコンバージョン率とスタッフの着用スタイリングを見た後のコンバージョン率は確実に違います。また、うちのサイトの中でタイムラインというのがありまして、スタッフをフォローすると自分のタイムラインにはそのスタッフの最新のスタイリングやブログが優先的に出ます。いわゆるパーソナライズですね。そのタイムライン経由のコンバージョン率も、非常に高い数字が出てきます。
(川添):田中さんの、[.st]ドットエスティーですが、「店舗との会員連携をした後が売上拡大の起爆剤になった」みたいな話を聞いたことがありますが、一方で「会員連携をしたけれどECの売上が全然上がりません」っていう企業もあります。実際に連携によって売上が上がった秘訣はあったのですか?
(田中):会員バーコード的なものをデジタルに振り切ったっていうのは大きかったですね。その後、会員になったら会員のランクを作るなど地道なことが重要だったのかなと思います。ただ連携するだけでは、お客様にベネフィットがないので、分かりやすいポイントを作ると言った地道なところが効いたのだと思います。
4.社内に共有していない、密かに今後やりたいアイデアは?
(川添):先ほど裏でお話ししましたが、林さんから話をお願いします。
(林):WEBを活用した接客が上手い人がすごくいらっしゃるということで言いますと、WEBは24時間接点を作れますよね。例えば夜、パルコが閉店しタイムカードを切った後は一個人ですよね。すごくWEB接客の上手いビームスのスタッフさんに、他のショップさんのコーディネートだとかWEB接客を手伝ってもらうようなことはできないでしょうか。WEB接客が上手い人達が集まるプラットフォームを作れたらいいなというアイディアがあるのですが、難しいでしょうか。
(川添):すごい面白いと思います!社内の規定は置いておいて、お二人はどうですか?
(田中):すごくいいと思います。中国とかでも外部コマース、人が配信してそれを見た人が共感したら買ってもらえるというのが増えています。林さんの発想や矢嶋さんが取り組んでいることは、人がどういう風に伝えていくかというノウハウが溜まるビジネスが今後来るかなと思っています。ノウハウを伝授するプラットフォームとノウハウを活用し人に教えていくというのが必要なのかなと思っていて、面白いなと個人的に思います。
(川添):日本って、小売業界の人が疲弊しているというか、潤わないと、この仕事に就きたいとならないので、そういったプラットフォームを作っていただきたいと思います。
会場からの質問
(川添):セッションはここで一通り終わりにして、質問したいことはありますか?
(質問者1):リアルの接客では、年間1,000万円払っている人と一見さんが同じ場で接客をされていた時に、「何であの人だけペリエ出ているの?」みたいなことがあると思います。リアルのところでは、接客の提供する価値とか顧客体験が違うと思うんです。
WEBの場合は、客単価に関わらず均等に提供できるというのがメリットかもしれませんが、WEBで1,000万円払っている人とたまたま一回買う人が同じ体験で良いのかとか、例えば、購入頻度が高いとクーポンがもらえるとかはあると思うのですが、接客体験というところで客単価とかライフタイムバリューによって変えていくという発想はありますか?
(林):ライフタイムバリューの観点はすごく大事で、ショッピングセンターは実は意識していなかったというか、データがなくてですね、そういう発想に至らなかったという過去があるのです。ライフタイムバリューを上げるためにというのが、今、残念ながらペリエとか本当はやりたいのですが、クーポンとか何かポイントをたくさんあげるということに終始してしまっていることが残念で、変えなくてはいけないと思っています。そこが「ワォ」と思ってもらえるのが、この後、僕らだけじゃなくみなさんとあみ出せれば価値が上がるなと思っています。アイディアがあれば是非教えてください。
(質問者2 ナカヤマン。):ファッションの場合、誰が着るかで売上が随分変わると思います。在庫量、生産数量がある中で、誰に着させるかをコントロールするのと、誰が着るかで生産ロットをコントロールするか、いろいろな兼ね合いがあると思うんですが、人と商品との兼ね合いというか、そこの部分は面白いアイディアや今取られている戦略はありますか?
(矢嶋):誰が着るかというのは我々の側のですか?
(質問者2 ナカヤマン。):接客側です。
(矢嶋):一応弊社では25くらいレーベルの数がありまして、そのブランドディレクターがイメージした自分たちの世界に共感するスタッフがその下にいます。そして、その想いを汲んだ店頭のスタッフがそれを実現していく先に、ブランドイメージの完成に至ると考えています。先ほど紹介したコンテンツには、店舗のスタッフや、ディレクターもいるんですけど、それぞれの立場で情報発信していくというところで、コントロールをかけています。
(川添):極端に言うと、これを売りたいから全員これを着ろという指示は基本ないですか?
(矢嶋):あまり、それはやりたくないですね。先ほどのコンテンツは、全て自発的な行為でやってもらっていまして、押し付けではないんですね。それを維持していることのひとつに、投稿しやすくするため自分のスマホからあげさせるっていう裏側の管理ツール、管理画面側もそういった工夫をしています。あまり縛らず、そこはお互いの信頼関係で弊社は多少ゆるく自由にやっています。
(川添):ありがとうございます。時間なりましたので、セッションを終わらせていただきます。
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