オンライン接客の裏側ーードラえもんに接客される日が来る!?アドテック東京2017 (前編)【2017年10月公開記事】
オンライン・オフラインをつなぐコマースプロデューサーかつECビジネス周りを伝える・応援する川添 隆(Twitter等のSNS一覧)です。
旧ブログからのお引越し記事として転載しております。
※オリジナル公開日:2017年10月20日
現在オンライン接客は一般化しつつあります。本記事は2017年時点での内容ですが、これからオンラン接客を強化したいと考える企業の方々の参考になればと思います。
ちなみに、全員が小売事業者かつスピーカーは全てファッションに関わるメンバーというのはアドテック東京ではとっても珍しいセッションになりました。余すところなくレポートしております。
ツール活用がWEB接客にあらず!本物のWEB接客とは?
テーマ
B-7:ツール活用がWEB接客にあらず!本物のWEB接客とは?
登壇者(所属・肩書は2017年当時)
スピーカー:株式会社アダストリア WEB営業部 部長 田中 順一さん
スピーカー:株式会社ビームス 開発事業本部 EC統括部 副部長 矢嶋 正明さん
スピーカー:株式会社パルコ 執行役 グループ ICT戦略室担当 林 直孝さん
モデレーター:株式会社メガネスーパー デジタル・コマースグループ ジェネラルマネジャー 川添 隆
※以下、敬称省略させていただきます。
只今、アパレル業界はフルボッコ
(川添):今回のテーマは“WEB”というくくりだけでなく、デジタルチャネルなどを含めた“オンライン接客”という範囲でディスカッションしていきます。
(川添):アパレル業界は本当に叩かれまくっています(苦笑)でも、そろそろ前向きな話をしてもいいんじゃないでしょうか。
また、アパレル業界の人がアドテック東京などの大きなマーケティングイベントで話をするというのはほとんどありません。それを打破したい意図もあって、業界を代表して先進的な取り組みをしているお三方をお誘いしました。
(川添):“WEB接客ツール”が登場して以降、“WEB接客”という概念が一般化してきました。しかしながら、これらのツールを使うことが“接客”なのではありません。
では、会場の皆さんのの中で、スライドと全く同じではなくてよいので、この手のマーケティングツールを使っている方は挙手をお願いします。
(参加者):会場80%ほど挙手
(川添):会場の8割ほどは何かしら導入されているのですね。とはいえ、大切なことはツールやトレンドに振り回されずに、自社の接客を最大化するために、他のスタッフの効率が良くなるように支援をしていかなきゃダメです。
(川添):次に“お客様の接客の受け止め方のこだわりや感じ方が変わってきています。
上記右図はアーバンリサーチの事例ですが、店内で“接客の声かけ不要”の意思表示をする人もいます。一方、左は気仙沼ニッティングの事例。注文から商品が届くまで612日の月日があり、その間にニットの編み手ご本人から何度が手紙で進捗共有やコミュニケーションが行われ、ようやく十数万円のニットが届くというような究極の接客のカタチもあります。
“接客”はだんだんと二極化している流れがあるのではないでしょうか。そんな中で、今回は以下の4つについてディスカッションします。
1.WEB接客は本当に可能か?(ブランドロイヤルティを作ることは可能か?)
2.事例の裏話をこっそり教えて
3.どのようにWEB接客を・・・売上・利益に直結されるか?KPIを設定するか?
4.社内に共有していない、密かに今後やりたいアイデアは?
1. WEB接客は本当に可能か?(ブランドロイヤルティを作ることは可能か?)
(川添):各社のWEB接客の定義をお聞きしたいです。
(林):社内での定義は“WEB接客”という概念があります。その位置づけは“接客の拡張”と捉えています。
(矢嶋):社内にはオフライン接客、オンライン接客という概念、2つの軸で考えています。WEB接客ツールも導入している。それらをいかにうまくミックスさせて小売りをしていくか?ということで取り組んでいます。
(田中):WEB接客は可能ということを追求していきたい。各企業の強みに対して、オンライン上でどんな情報を伝えるか?どういう風にコミュニケーションをとるか?ということで“差別化”を図ることでロイヤルティを作ることは可能だと思っています。
(川添):田中さん、アダストリアのWEB営業部以外の部門にまたがって“WEB接客”や“オンライン接客”という話は出るんですか?
(田中):出ますが、ツール中心の話が多いです。最近、導入していたキャンペーン告知中心のWEB接客ツールは一旦やめていて、本来のスタッフを使ったオンライン上の接客とはなんぞや?ということを考えています。
(川添):矢嶋さん、店頭での接客を100だとしたら、デジタルチャネルにおける接客は、何割くらいまでクオリティまで担保できると思いますか?
(矢嶋):何割で表現するのは難しいですが、まず“店頭でできること”、“WEBでできること”の違いがあります。 その上で、店頭を仮に100とした場合に、WEBが限りなく100に近づけるような努力はできると思います。ただ、唯一できないのは、“試着をするという体験”だけができないので、その部分は埋まらない差になるんですが、それ以外はできるだけ近づけていきたいと考えています。
(川添):役割がそもそも違うから、どちらも100で、違う種類の100になり得るということでしょうか?
(矢嶋):そこを目指していくべきかなと思います。
(川添):林さんは、WEB接客によってブランドロイヤリティが高まったという話をテナントさんから聞いたことはありますか?
(林):パルコはブランドさんに出店いただいているショッピングセンターですが、そこで一つ良いエピソードがあります。あるブランドのスタッフさんがブログをやっていて、地方から初めて来店されたお客様を接客した際に、「私はブログをやっております」とブログページのQRコードを渡したそうです。そこから「接客」というのがずっと続いていて、地方に戻られたお客様はお住いのエリアにもそのブランドのショップがあるにも関わらず、「あなたから買いたいので商品を送ってください」と注文されたそうです。このように、ブランドロイヤリティが高まったという話を実際に聞きました。
2.事例の裏話をこっそり教えて(パルコ編)
(川添):3社の事例は検索したら出てくると思いますので、是非裏話をお聞きしたいと思います。まず、パルコの林さんからお願いします。
(林):WEB接客については、テクノロジーで接客を拡張するというコンセプトで段階的に行っています。
最初は店頭にいるスタッフの接客をWEBでもできるように、24時間いつでもどこでも利用してもらえる仕組みを作るため「24時間パルコ」というコンセプトで接客の拡張をスタートしました。これが“WEB接客Ver1.0”です。
その後、WEBのデータだけよりも、店頭周りの情報を使った方がより良い接客ができるのではないかということになり、カメラやWi-Fi、GPS、屋上に設置した気象センサーなど様々なIoTのセンサーデバイスからのデータを組み合わせ、テナントがより良い接客をしやすいデータとして戻すことができるようにしました。これが“WEB接客Ver2.0”です。今年に入って新たな取り組みを進めています。
接客の先には商品購入というフェーズがありますが、ショッピングセンターは各ショップにどのような商品が何点あるかといった商品データをほとんど把握していません。このようなデータは接客の中で必ず必要になるものですから、各テナントにデータの連携をお願いしています。また、本日からロボットを使った実験がスタートしました。池袋パルコの某フロアの某ショップで、日中はロボットがお客さんを希望するショップやトイレに誘導。夜になると、RFIDというICタグで商品を管理しているショップの中をロボットが周り、これまで人が端末を使って読み込んでいたデータを集めてくれることで商品在庫を把握する、つまり“商品在庫のデジタル化”を試みています。これが“WEB接客Ver3.0”です。
この先に、現在実験していますがVRとかARが普及していくだろうと考えています。“体験のデジタル化”と書いていますが、リアルな体験とWEBの体験の間にあるような体験が、今後はもっとリアルにできていくでしょう。ここまで到達し、かつAIで質を高められるようになれば“WEB接客Ver4.0”となると思います。
このようにしたいという妄想も入っていますが、以上のようなことを現在進めています。
(川添):パルコさんは、「24時間パルコ」というコンセプトで、通常なら店頭に来た時点で接客なのですが、来店前から接客が始まっているという概念は非常に画期的ですし、デベロッパーという立場で行なったことはとてもすごいと思います。店頭しかなかったものを、WEBの接客にまで上手に拡張していく際の秘訣は何でしょうか?
(林):その点は非常に難しくて、パルコの場合は店頭にいるスタッフはパルコの社員ではなくテナントの社員さんなので、「ブログを書いてください」といった強制力はありません。テナントさんにお願いするしかない訳ですが、データを可視化できたことが大きかったと思います。WEBやデジタルは数値化できるので、「あなたの投稿した記事はこの位支持されていますよ」ということが指標化され、投稿者もお客様も見ることができます。それによってどの程度お客様が来店したか、店頭で商品を購入したか、もしくはどの程度ネットで買われたか等をデータ化して提示することが、WEB接客の拡張促進に役立っていると感じます。
(川添):ロボットの接客を現在は池袋、以前は仙台で実施されていましたね。今回、このロボットの接客が新たに追加された訳ですが、ロボットの接客は実際にありえると思いますか?
(林):ありえると思います。ロボットはまだヨチヨチ歩きですが、これからどんどん精度が上がりできることが増えていくと思います。それには使っていくことが必要です。究極的にはドラえもんを作りたいと半ば本気で考えています。そこまでパーソナライズされたお友達ロボットが自分のためだけにいたらとても楽しいし、そのような購買体験を提供できればと思います。もちろん、人による接客は大切ですが、ロボットが人をサポートするような接客というのは現実的にありえると考えます。是非、池袋パルコに行って意見を聞かせていただきたいです。
(川添):仮に、パルコさんでドラえもんができたとしたら、田中さんは出店側として使ってみたいですか?
(田中):趣味嗜好にあったドラえもんがいたら良いでしょうし、リアルを含め、デジタルも活用した販売スタッフの人の今後のキャリアなど、何が最適なのか色々なところで議論が増えています。AIロボットがどんな課題を解決するのかというのが面白い未来につながるのではないかと思います。
2’.事例の裏話をこっそり教えて(アダストリア編)
(川添):ありがとうございます。次のスライドで田中さんからQ&Aの取り組みについて紹介をお願いします。
(田中):今は訳あってクローズドしていますが、3年前、Eコマース上でお客様がファッションの悩みに関して問い合わせできるようにしました。例えば、「このようなコーディネートを考えています」「この商品を買ったけど、何に合わせれば良いか分からない」といったものです。弊社内には22のブランドがあるのですが、そのスタッフの方たちが答えていくというWEB接客を立ち上げたわけです。
結論としては失敗でした。1ヶ月で800件の質問が寄せられ、複数のスタッフが回答するので単純に回答数は2倍程度、1,500件の回答数でした。理想としては8万件の問い合わせが来て20万件くらい返せるとコミュニティが成立するかなと考えていましたが、それには達しませんでした。時代の背景的にも、商品が多様化し、インフルエンサーという言葉があるように、人から勧められた物を買うという文化は今後も変わらないでしょう。また、メルカリのように「これ安くしてください」といった個人間のやりとりがあった上で購入するという消費行動がこの1年で高まっています。
話を戻しますが、最初の取り組みはメールでした。お問い合わせがメールできて、メールで回答する。そしてそれをプラットフォームに載せるという形でした。そこにはタイムラグが発生してしまいました。3日間以内に返信するというものでしたが、その3日間というタイムラグが離脱率の高さとリピーターになってもらえなかった大きな要因でした。今はフィードバックできるデータがどんどん進化しているので、ただ売るだけでなく、人の温かさを入れた双方向の売り方というのができるかなと思います。一度実験してみて、どのように進化させていけば良いかと考えているところです。
Eコマース責任者は売上だけにとらわれず、定量と定性、定性の部分の深掘りをしないと大きいプラットフォームに負けてしまう時代なので独自性を出していきたいと思います。
(川添):ありがとうございます。アダストリアさんは、ユニクロを除くと国内アパレル業界野中でEC事業売上高はナンバー1です。[.st]の規模もモール並みに大きいですが、商品画像には並々ならぬこだわりがありますよね。例えば、ローリーズファームは全てモデル着用、ジーナシスは全て物撮りで撮影するなど、ブランドイメージに合わせて商品の画像を切り替えていますが、ブランドの意向を汲み取っているということですか?
(田中):22ブランドあり、商品にも差別化できる物とそうでないものがあります。トップスの場合なら、Tシャツなどは似てしまいます。同じモデル、同じ撮り方で並べてしまうと差別化するのは価格だけで終わってしまいます。商品画像やブランドの世界観というものもWEB接客の一つだと捉えています。モデルさんや撮り方を変えることを日々探求しています。
(川添):撮影スタッフは何名くらいですか?
(田中):25名です。ちゃんとしたスタジオを構えています。そこには力を入れています。差別化の一歩ですし、WEB接客の一つだと思います。
(川添):商品画像に動画を取り入れていますね。しかも、通常はスマホの場合は、別ウィンドウが立ち上がってしまうのですが、この動画は自動再生されます。最近、他の企業でもこういう技術導入が増えていますが、これを導入した背景は何でしょうか?
(田中):しっかりと商品を伝えていことは、サイトとお客様との信頼関係を強くする一つの要素です。静的なものよりも動的な方が商品の形や生地感等が伝わりやすいのです。1つ1つの商品画像の中に、入れられるものは全部内製化して入れていっています。これによってコンバージョン率がどの程度上がったかというのは正直難しいですが、しっかりと、親切に伝えていくという接客の概念に紐づいた取り組みを続けていきたいと思います。
(川添):ビームスさんの撮影に関してはどうですか?
(矢嶋):3年ほど前に、物流センターの中に撮影スタジオを内製化しました。撮影ブースは複数レーンあります。物撮りの撮影は商品をそのまま撮るのですが、靴と洋服では撮り方が違います。商品をモデルさんに着用してもらって撮影するレーンもあります。モデルさんに着てもらった時は上下のコーディネートにこだわり、トップスが白ならボトムスは黒にするとか、トップスが赤に変わったらボトムスは黒では駄目とか、全て上下を入れ替えるような撮影方法をしています。このように画像の部分についてはかなりこだわっている状況です。
続きは後編にて。
終
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