平常時にチャレンジし続ける企業・ブランドは、今何をやっているのか?【ビームス/ウィゴー】
ECエバンジェリストの川添 隆です。#Withコロナ時代を生き抜くヒント を探っていく連載を実施します。
小売の中でも、コロナ禍によって苦境に立たされているアパレル業界。その中でも奮闘しているビームスとウィゴー(WEGO)は、多くの店舗スタッフを巻き込んで踏み込んだオンライン接客を行っています。
全国的に非常事態宣言解除に向かうものの、店舗の客数が元通りになるには時間がかかると予測しています。その上でもオンライン接客は武器になるでしょう。
連載第4部は、平常時でもチャレンジし続けるアパレル企業のコロナ禍における取り組み、それに対する私の意見をまとめました。
あなたの企業は、平常時に“チャレンジ”していた?
一言にコロナ禍、Withコロナと言っても、状況は刻々と変化しています。今後は全国での非常事態宣言解除に向けて、新たな運営方法で店舗営業をやっていく第2フェーズ(小売における「ニューノーマル」)に入っていくでしょう。
一方で、これまでの各企業の動きを見ていると、企業規模の大小に関わらず下記の2つに分かれていると感じています。
1.平常時にチャレンジし続け、成果をあげている企業
2.平常時に保守的であっても、それなりの利益が出ている企業
※今回は平常時にピンチの企業(赤字の企業)は論点から省きます
前者のような自らの変化を促してきた企業で、なおかつ顧客との関係構築のためにコツコツと顧客情報を蓄積してきた企業は、今回のような緊急事態においても変化に対応するスピードが早いと感じました。もちろん、店舗がメインであれば経営の打撃が大きいのは間違いありません。その中でも利益向上や顧客との関係構築、社員やお客様の安全確保に素早く対応されたと捉えています。
アパレルの中でも、素早い対応で注目されているのがビームスとウィゴー(WEGO)です。この2社のコロナ前後での取り組みを基に、いかせるポイントなどを解説します。
動物園のような各個人の個性をいかす・伸ばすビームス
<引用:BEAMS公式サイト>
ビフォーコロナから「アパレル業界におけるオムニチャネルの代名詞」になっていたのがビームスです。「モノを通して文化をつくる“カルチャーショップ”」が軸にあり、その中で本部・店舗関わらず個性あふれるスタッフの方がいらっしゃいます。
私自身も何度の取材やパネルディスカッションでご一緒し、過去にオンラインの取り組みをまとめています。
参照:「ビームスのマネ」はヤケドする。取り組みの解説と、ヤケドの理由&対策とは?ー続・「実店舗+EC」戦略、成功の法則
デジタルチャネルにおける主な取り組みは下記です。
2016年5月 自社ECをecbeingへリプレイス、店舗配送とEC物流の統合
2016年9月 ブランドサイトとECサイトの統合→公式サイト
2017年3月 RFID全店導入完了(2012年から一部導入)
2018年3月 店舗とEC双方の在庫取り寄せ開始
2018年3月 「BEAMS TAIWAN公式サイト」をオープン
2018年10月 スタッフビデオ開始
2019年11月 LINEログイン導入(LINEアカウントを使って会員登録と会員カード作成を同時に可能
2020年3月 Z世代に向けたEC専用レーベル<BeAMS DOT>を発表
2020年3月 ライブコマース(ライブショッピング)の初配信
2020年4月 ビームススタッフの暮らしや趣味などを紹介する動画シリーズ「BEAMS AT HOME Video」をYouTubeで公開
間違えていけないのは、「ビームスはコロナ禍だから突飛なことをしたわけではない」ということです。ビフォーコロナから、店舗スタッフそれぞれが能動的にビデオ(ショート動画)、スタイリング、フォトログ、ブログを投稿し、お客様とのコミュニケーションを活発に行っていました。各スタッフごとのコンテンツ経由でのEC売上や閲覧数などの結果数値は確認できるようになっていて、各自がPDCAを回されています。
※2020年5月19日現在で、公式サイトに登場してるスタッフ数は2,084名
一方で、コロナ禍以降の新たな取り組みは、顧客とのリアルタイムなやり取りが可能なライブコマース、YouTubeのプラットフォームを活用した「BEAMS AT HOME Video」です。
■ ライブコマース
インフルエンサーによるライブコマースも1配信で40万円いったらいいほうという水準の中で、ビームスの初配信では「約1時間の配信で6,000人以上が視聴し100万円弱を売り上げた」とのことで、比較的高水準な結果になったと思われます。いずれにしろ、「店舗スタッフ自身のオムニチャネル化」が小売業界の中でもトップレベルで進んでいることにより、今回のライブコマースでも柔軟に対応できたのではないでしょうか。
■ BEAMS AT HOME Video
<チャンネル説明>
世界累計29万部を誇る『BEAMS AT HOME』シリーズの動画バージョンが始まりました。ビームス スタッフの得意なことや独自の視点を生かしたテーマで、それぞれ思い思いの方法で撮影・編集した動画を“HEARTS TOGETHER”を合言葉に、お家からお届けします。
この取り組みのポイントは、「スタッフの視点」と「自宅からの配信」だと捉えています。
「スタッフの視点」に関しては、デニムの知識・靴磨きのようなファッションコンテンツだけでなく、ダイエット・料理・韓国語講座・映画など本当に内容が多彩です。カルチャーショップのスタッフならではの、それぞれが好きなカルチャーがコンテンツとして存分に発揮されています。
「自宅からの配信」に関しては、そう簡単なものではありません。ブランドや企業の許容力と部屋のファッション性が重要になってきますが、ビームスはどちらもクリアしているということです。この取り組みは、ZARAが「外出自粛中のモデルの自宅で撮影した画像を使用しているスタンス」にも似ています。ただし、ビームスは自社スタッフかつ動画という点でより難易度が高いことを実施されていると捉えています。
<補足>5月19日に全編ビームススタッフが出演するステキなムービーが公開されています。
ファッション性を忘れず、最先端にチャレンジし続けるウィゴー
<引用:ウィゴー公式サイト>
「ファッション業界で先駆的な取り組をやるのは、ラグジュアリーブランドとウィゴー」と言っても過言ではないと思っています。ウィゴーの取り組みはファッション性があり、ユニークで、かつチャレンジングなものが多いと感じていました。
ブランド・スタッフ個人のSNS・ライブ配信、いち早いTikTokやSHOWROOMでの配信、デジタル・ゲーム・ライブなどあらゆるエンタメを詰め込んだ創立25周年を記念したイベント「THE PASSION FES~情熱祭~」、社内インフルエンサーの登用や発掘・育成、連続的に登場する人やコンテンツとのコラボレーション。挙げればキリがありません。
それだけでなく2018年11月から、スタッフによるコーディネートコンテンツ「STAFFSTYLE」がスタートし、継続的な運用をされていました。
<引用:WEGO ONLINE STORE>
■ ライブコマース
コロナ禍以降は店舗でのライブコマースに力を入れられています。
「古着オークション」など各店舗の特性(商品ラインナップなど)と各スタッフのアイデアをいかしたコンテンツを自発的に配信されているようです。インスタライブ配信も積極的なようで、下記の2カウントの配信を見るだけでもそれぞれの特徴がでていますね(IGTVにアーカイブされています)。
オンラインとオフラインの両方で活躍できる人材が、さらに増えそうですね。
■ バーチャル店舗
4月29日~5月10日の期間限定ですが、世界最大級のバーチャルイベント「バーチャルマーケット4」にWEGO初となるバーチャル1号店を出店されました。バーチャルマーケット内で使えるアバターのファッションをコーディネートで販売され、そのバーチャル店舗スタッフは現役WEGOスタッフがリモートワークとして対応されたようです。
前回は、WEGO SHIBUYA109店との連携によるリアル店舗とバーチャル店舗を結びつける取り組みでした。恐らく、コロナ禍に関わらず、バーチャルマーケットへの出店は準備されていたと推測します。しかし、このタイミングで、ライブ配信のように実体を使わずに、リモートワーク×アバターによって接客販売が実現したのは、かなり先駆的な取り組みであることは間違いありません。
非常事態や危機においては基礎筋力が試される
まず、3〜4月の小売業各社の動きや数字を見ていると、下記のような企業は苦境の中でもなんとかビジネス運営できていたと感じています。
◯店舗を開店・休業の意思決定を自社でできた企業(路面店など)
◯顧客情報を管理できている or オンラインで顧客とつながっている企業
アパレル企業のほとんどは、百貨店・駅ビル・ファッションビル・ショッピングセンターにテナント出店しており、開店・休業は商業施設に合わせざるえませんでした。
一方でビームスやウィゴーなどは、平常時に下記のような体勢を継続しているため、緊急事態でも対応できたのではないかと捉えています。
◯ECやオンラインでの接点に投資し、継続的な運営強化を行う
◯日頃からプロフィットを生み出している店頭スタッフをオンラインで活躍できる環境に投資・運用する
◯ブランドの“らしさ”を軸として、顧客ニーズに合わせた商品・サービスを追求・チャレンジし続ける
また、2つの企業ともライブ配信(ライブコマース)に着手していますが、ライブ配信に求められる下記のスキルを持ったスタッフを平常時に育成できていたのでしょう。
◯ブランドや商品を語りつくせる
→販売には必須のスキルだが、スタッフへの浸透が難しい
◯画面を通じて視聴者を巻き込む
→視聴者がライブ参加する意味合いや存在感を感じられるか、店頭でも必要なスキル
これらの基礎筋力に、機転の効いた創造力が合わさったことで、店舗営業ができない苦境下であってもユニークな取り組みも生まれたのではないかと考えています。
オフライン・オンライン問わずにお客様に価値を伝え、商売をしていく。そのために、組織全体でコツコツ努力、少しでもチャレンジしていく。これらの重要さを再認識いたしました。
連載コンテンツのご紹介↓
第1部
第2部
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第5部
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第7部