ソーシャルコマースの状況は中国・アメリカ・日本で違う?ブランドとインフルエンサーの関係を考察
オンライン・オフラインをつなぐコマースプロデューサーかつECビジネス周りを伝える・応援するEコマース先生の川添 隆(Twitter等のSNS一覧)です。
ソーシャルコマースのニュースを拝見して感じたことを軽くまとめました。
“ソーシャルコマース”は定義は、記事内で言及されているものを前提とします。
海外では各国で異なるソーシャルコマース
上記の記事はグローバル全体的な動きとして書かれているようですが、中国、アメリカ、日本でのソーシャルコマースの背景が異なるため、その前提を理解する必要があると捉えています。
海外の部分は推論がメインですが、私の捉え方を共有いたします。
ソーシャルコマース先進国は中国
記事にも書かれているように、ソーシャルコマースの先進国は、実績からも中国で間違いありません。
小紅書(RED)や抖音(Douyin)などのプラットフォーム経由での流通は莫大な規模に成長しています。すなわち、コミュニケーションプラットフォームとしてコマース領域が発展し続けています。一方で、中国のリテールやマーケティングに直結している方々にお話しを聞くと、ブランドの信頼というよりも、KOLの信頼・影響が購買のトリガーになっていると聞きます。
中国においては、広告費やKOLのアサイン費用が高騰し続けているという流れを考えると資金力が必要です。オンラインチャネルの競争激化、そしてKOLのようなプロ化したインフルエンサーへの依存度が高くなっている中で、資金力がない中小ブランドはチャンス少ないと捉えています。
中国特有のインフルエンサー周辺の環境については下記をご覧ください。
一方で、中国では2015年にスタートした拼多多(ピンドゥオドゥオ)という共同購入サービスが急成長する動きがあるようです。
中国の場合、各ブランドのECやOMOがアリババグループや京東商城といったプラットフォームに依存している状況です。また、競争が激しい環境があるため、ラストワンマイルやオンラインのマッチング(マーケティング)コストが高い状況にあります。その背景の中で、共同購入はゲーム要素のあるショッピング体験でユーザーを巻き込めるので、ブランド側としてはマーケティングコストが抑えられるというメリットがあると聞いています。
過去や現状から全体的な構造を見ると、中国ではブランドと生活者のつながりは強くないようです(ハイエンドブランドは除き)。現地でECマーケティングをやってきた友人からも同様の考察をもらっています。ただしソーシャルコマース先進国が、コミュニケーション型コマースの次のステージに行っているのは間違いでしょう。
各立場が独立しているアメリカ
上記はナイキの戦略分析と、ナイキと直接関係のない企業を含めて関連スタートアップあるかをまとめた記事です。この中でも「ソーシャルコマース&コンテンツ」は1つのトピックスとして記載されていますね。
ブログがインフルエンサーの活動場所だった時の状況共有や、新しいD2CブランドやWEBサービスを紹介するインフルエンサー動画を見かける流れを見ると…アメリカにおいては、ブランド・インフルエンサー・プラットフォーム(ツール)・生活者のそれぞれが独立した立場が確立されている印象があります。中国のソーシャルコマースはインフルエンサーに力が寄りすぎているのとは対照的ですね。アメリカでは、ブランドがインフルエンサーを選ぶだけではなく、インフルエンサーがブランドを選ぶ(有料・無料問わず)という、お互いに意思を持って関係性が築かれていると捉えています。
またメジャーなSNS以外でも、安価な配信プラットフォームが増えてきました。SNSプラットフォームで少しずつ認知拡大とゆるいつながりを形成し、自社のオフィシャルサイトの方でライブコマースやチャットなどの濃いコミュニケーションをとることが容易になりました。コンセプト・商品・ビジュアル・企画を磨いていけば、大企業だけでなく中小ブランドも戦っていけるでしょう。
さらに、店舗を月額で利用できるRaaSサービスが充実してきているので、大企業でなくてもOMOを実現しやすくなっていくと考えられます(中国のOMOはプラットフォームが基盤になっている)。
日本のソーシャルコマースの課題
日本においてSNSプラットフォームを利用したコマース機能が注目されたてきたのは2021年あたりからと認識しています。ただし、現時点の事業会社側のマインドは「オンライン接客」や「SNSからの集客」がメインだと捉えています。
オンライン・オフライン双方のコマース領域で、セミナーを含めた情報発信側としては、現代日本の商売は“手段”という呪縛に縛られていると感じます。それは、インフルエンサー活用においても同様です。
ブランドとインフルエンサーの関係がアンバランスな日本?!
私の見解では、インフルエンサーが強い中国、インフルエンサーとブランドが独立しているアメリカというのが各国のソーシャルコマースを取り巻く環境だと認識しています。では日本はどうでしょうか?
日本では“コマーサー”という新しいキーワードが出てきました。いち早く手がけてきたアイレップによる“コマーサー”の定義は下記です。
ということで、インスタグラマーやYouTuberのような情報×人を軸として伝えるインフルエンサーと、商品・サービス×人を軸として伝えるコマーサーが、日本のソーシャルコマースで活躍する人だと言えるでしょう。
役割が細分化されたとも言えますが、10数年コマース領域に携わってきた私個人としては、日本のコマース領域ではインフルエンサーは“広告の延長”でしかなく、“消費される対象”だと思っています(一部の方を除いては)。
※誰かを攻撃したいつもりは一切ありませんが、個人的な見解とご理解ください。
例えば、ブログ時代初期では1記事単位でフィーが発生していたものの、後期になると大多数がアフィリエイトに移行します。また、Instagramも1投稿で「1フォロワー×1〜3円」ほどの相場だったのが、今ではその1/10の単価が多くなっています(もちろん、価値を落とされていない方は存在する前提です)。
日本の場合は、一定の市場が出てくると個人や会社などの“代理店”が介入して、“広告商品化”していくことを繰り返しています。ビジネスとして成立することは悪いことではありませんが、“個人のブランド化”を本人も他社もマネジメントしていないため、使えば使うほど個人の信頼や価値が消費されていく構造になっていると捉えています。
Z世代だけでなくユーザー側がSNSから商品を見つける行動が増えてきているのは間違いありません。ただし、中国やアメリカとも違って、日本ではブランドとインフルエンサー・コマーサーが従属関係というのが、ほとんどのケースではないでしょうか。
ブランドにとって第三者の情報発信は不可欠!
今、日本のソーシャルコマースで抱えている課題があったとしても、ブランドにとってはインフルエンサーやユーザーからの情報発信は必要なのは間違いありません。日本ではどのようにソーシャルコマースが発展していくでしょうか?資本力のあるブランドを除いた場合の私の予想です。
・基本のスタンスが媚びないブランドで、サービスやコミュニケーション領域のみ顧客の声を取り組むような座組みは今後もうまくいく
・ユーザーと信頼関係が築けているマイクロインフルエンサーや社内のスタッフは活躍が増える
・(やはり)商品発信が得意なコマーサーを束ねた代理店や、コマーサーがセットになったプラットフォームが続々登場する
・ソーシャルコマースを丁寧に活用するブランドと、雑に活用するブランドでは後者の方が多くなる
展開するブランド数が増えれば、結果的にソーシャルコマースの流通量は増えるのは間違いないでしょう。その中で、あなたが“売る側の人”や“売る側に加担する人”だとしたら、どのような取り組みをするか?について、ぜひ考えてみていただければと思います。
【おまけ】マーケターはZ世代の行動を素直に受け入れるべし
先日、Voicyの音声番組 #ヤング日経 の事前公開収録イベントに参加いたしました。Voicyでも配信がされていますので、Z世代の行動を理解するためのぜひ聞いていただけたらと思います。
30代以上の方々は「よくわからん」ではなく、まずは素直に受け入れる姿勢をとってみてください。そして、Z世代と一緒に考えていく方が良いのではないでしょうか。
終
コマースプロデューサー / Eコマース先生
川添 隆(Twitter:@tkzoe)
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