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<改訂版>オムニチャネル推進の号令、実務としてどこから着手すればいい?

ECビジネスの可能性を布教し、全国のEC担当者を応援するEコマース先生(旧Eコマースエバンジェリスト)の川添 隆(Twitter / YouTube)です。

この「ZOEの一問一答編」は、主に店舗メインの企業におけるEC事業を対象に、過去の寄稿記事を再編集したシリーズ。


はじめに(こんな人にオススメ/記事の概要)

今回は、下記のようなコンテンツです。

■ 対象となる人
・オムニチャネル推進やDX推進の号令を受けて、実務としてどこから着手すればいいか知りたい方
・推進を検討しているが、どんな準備が必要か知りたい方
・オムニチャネルとOMOの違いを理解したい方
・オンラインとオフラインにおける小売業の動向を知りたい方

■ 内容
オムニチャネル完成の6つのステップの考え方と事例を示すコンテンツ
(チームづくり、自社ECの拡大、サービスの同期、テクノロジー活用、物流改革・組織改革、接客の活用)

オムニチャネル推進の号令、実務としてどこから着手すればいい?の改訂版です。
※どこが変わったかも見られるように、過去の記事も残しています。

■ 該当する戦略のレイヤー
ブランド戦略から販売戦略まで(下記の紫の枠)

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オムニチャネルとして必要なソリューション、OMOとは

  小売業だけでなく、メーカーや生産工場でもオムニチャネル、さらにはOMO(Online Merges Offline)の推進は必要性を増しています。「そんなこと考えていなかった」という企業でも、経営陣の“鶴の一声”で局面が変わることは大いにあります。

最近では、オムニチャネルとOMOが同義のように使われることもありますが、その違いやオムニチャネルの意義について再認識する必要があります。ここ最近で一番ピンと来たのが、株式会社コメ兵 執行役員  藤原義昭さん(Twitter:@yfujihara)の投稿です。
※下記は一部抜粋

■オムニチャネル戦略の役割

■OMOとは

藤原義昭さんの言及を私なりに解釈して下記にまとめます。

■オムニチャネルとして必要なソリューションとは、まずは全社在庫を一つのバケツに入れ各チャネルが顧客の要望があったときバケツから要望のあったチャネルへ移動させる事ができる状態を作り出す事。

■顧客統合などはマーケティングの範囲。

■OMOは、リアルとデジタルが溶け合う事によって顧客体験を最大化し、顧客の買い物するときの取引コストを下げてゆく活動。

この考え方は、私もかなり納得しました。
私が実践してきたオムニチャネルのステップは、上記とは一致しませんが、これも一つの考え方として参考になればと思います。
※今回はそれぞれディテールの話ではなく、ある程度網羅的に解説します。


オムニチャネル推進の号令がかかったが、実務としてどこから手をつけたらいい?

最初に着手するのは、ずばり人材確保・チームづくりです。

オムニチャネル推進は、最低限下記のような項目を全て理解することが求められます。
・顧客の課題は何か?
・顧客に求められているものは何か?(商品・サービスレベルなど)
・社内の組織や商流がどうなっているか?
・自社の強みが何か?

さらに上記を咀嚼してアクションに移していく。
それにはリーダーシップが必須で、どうしても個人やチームのチカラが求められるからです。


オムニチャネル完成の6段階とは

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私は自身のこれまでの経験で学んだ、次の6段階のステップで推進をしていくことをお勧めしています。

1.店舗もECも理解できる人材確保とチームづくり
2.自社ECの強化と規模拡大
 ※ECが向かない場合はブランドと顧客がつながるデジタル上の場
3.ECと店舗のサービスを同期、サービス面でのチャネル間の連携
4.テクノロジーの活用、プラットフォーム構築
5.物流改革/MD・人事事など関連部署の巻き込み
6.接客での活用


店舗もECも理解できる人材確保とチームづくり

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人材確保・チームづくりは、継続的に行う必要があります。中でも、リーダー選定が最重要。業界全体で絶対数が足りていないため、企業として育成、もしくは足りない部分だけ実務を熟知する専門家をつかうのが現実的です。

人物像としては、「メインの商いを熟知していること」を重視したほうが良いでしょう。例えば、店舗がメインであれば、店舗のお客様や現場でのオペレーション、商品配分の決定、モノの入荷・移動、指示系統・社内のキーマン把握、館との取り決めなどを熟知する必要がありますし、製造卸のメーカーであれば卸営業を熟知する必要があります。
そもそも店舗からスタートしている企業であれば、顧客も含めて店舗は企業文化そのものですし、企業の強み自体もそこを知らなければ見いだせません。さらに、属人化している部分が多いのが実情です。

ECやデジタル領域は、ある程度のWEBサービスを利用したことがあるような理解度があれば、後からでも習得できます。ちなみに、私の友人であるWHITE株式会社の横山 隆さんが、実務で使えるデジタルスキルを毎日のeラーニングとして提供するMENTERというサービスを提供しています。


自社ECの強化と規模拡大

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既存のチャネル(特に実店舗)以外で、ブランド戦略に基づいた「買うチャネル」、「つながるチャネル」の選択肢を広げるためには、自社ECがプラットフォームとして有効です。

自社ECを強化する上では、既存のチャネル(例えば実店舗)で展開しているサービスレベルを同期していく必要があります。運用でカバーできる範囲は限られるため、そのためには自社ECへの投資、そのための売上・利益獲得、そのサイクルをつくるための規模拡大が必要だと考えています。

規模が拡大すれば、部門のメンバーも増やせますよね。

そして、オムニチャネル推進にもシステム投資が必要になります。その時に議論になるのは、その投資(コスト)に対して誰がオーナーシップを持ち、リスクヘッジをどうするか?ということです。
自社ECシステムや物流投資やり、さらに儲かるという循環が作る。すなわち、オムニチャネルをゼロからスタートするのではなく、自社ECの延長として進めれば、リスクは極小化できますよね。また、推進担当者としては、「最悪、結果が出なかった時のリスクはECの利益でまかないます」という状況をつくることができれば、プレッシャーの軽減にもなります。
※特に私はこの観点を持っています


【補足】最寄り品のメーカーについて

最寄り品のメーカーかつ商品が一般流通で広く行き渡っている場合は、そもそもECに向かない可能性もあります(リピート化せず、利益が増えない)。その場合は、ブランドと顧客がつながるデジタル上の場を自社プラットフォームとして用意する必要があるでしょう。


【補足】自社EC化率

自身の経験と各社の数字を見たうえでの、個人的な見解です。

〇 3%未満:会社としての取り組みが弱い状態
〇 4~5%:取り組みをスタートして成長中
〇 6%以上:会社としてかなり注力してる状態(例:ユニクロ、アダストリア、ベイクルーズなど)


ECと店舗のサービスを同期、サービス面でのチャネル間の連携

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ここで言う「ECと店舗のサービスを同期する」とは、顧客情報の統合のような大きなシステム改修が不要な範囲でやることを前提としています。

例えば、アパレルのような鮮度が問われる商品、またニーズがあるにもかかわらず限定的に展開されるような商品は、「商品販売日」を店舗や他のチャネルと合わせることで、取りこぼしを減らすことができます。私はこれも1つの「ECと店舗が同期したサービス」と定義しています。この施策はこれまでの経験上、取りこぼしどころか濃いユーザーのニーズをキャッチできたり、集客効率も高まったりする連携だと捉えています。

他にも、「サービス面でのチャネル間の連携」としてEC注文商品の店舗受取りが挙げられます。厳密に店舗在庫を使おうとすると大がかりになってしまうが、一定のボリュームが出るまでは通常のECからの配送先を店舗にするだけでも実現は可能です。
※配送費用>システム改修費用になった段階でオペレーションを変えればよい

注意すべきは、この段階で自社のオムニチャネル戦略をある程度固めておく必要があることでしょう。次のフェーズ以降では、それなりに時間も投資額も必要ですし、システム・物流・サービス・接客などに、自社ユーザーのニーズや自社独自の強み(コアコンピタンス)を反映する必要があるからです。自社が提供する価値の本質、企業としての大義、自社のユーザーはどこに価値を感じているのか、ということ睨めっこしないと、自社の独自性も見えてきません

オムニチャネルの意義は「いかにチャネル同士を連携するか?」ではなく「いかに自社の強みを最大限に引き出して、顧客体験を向上するか?」に主眼があることを忘れてはいけません。


テクノロジーの活用、プラットフォーム構築

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顧客情報、購買情報、ポイントの統合や、WEB行動履歴の活用、アプリ、LINE、IoT、AIなどの大掛かりにテクノロジーを取り入れるフェーズです。冒頭の言及にあったように、モノの流れをスムーズにしていくためにもシステムの連携は必須になります。また、情報の統合やそれによるコミュニケーション(アプリやLINEなど)の領域は、オムニチャネルというよりも、マーケティングの領域になってきています。

一般的にオムニチャネルの話題は、この第4フェーズの話が多いです。逆に言うと、最初にここから着手したとしても、推進するチームが組織に影響力を持てなかったり、そもそも自社独自の強みで戦略に反映できていなかったりなどの理由で失敗に終わるケースをよく耳にします。もしくは、オーバースペックなシステム要件になってしまい、投資の判断がつかず前に進まないというケースもあります。

ここでは、最終的な「接客での活用」すなわち「お客様のメリットになるようなアウトプット」をイメージしたうえで、どの情報が必要か?どのシステムとの連携をどういった頻度で行うか?などの設計が必要です。むしろ、大規模なシステム構築する前に、限定的でもよいので「お客様のメリットになるようなアウトプット」のPDCAを回して、勝ち筋を見つけておくのが理想的です。

例えば、店頭受取やEC→店頭での試着サービスなどは、厳密な物流管理システム連携をせずとも、EC側のシステム改修のみでオーダー(ニーズ)を受けて、ECの在庫を使って希望の場所に出荷すれば実現は可能です。このケースの場合、本来は在庫を最適化するために、在庫がある場所の在庫を使うのが理想です。しかし、そこまでやるとシステムやオペレーションの影響範囲はかなり大きくなるので、その前段階で稼働ができる仕組みを作るのをお勧めします。

この段階から本格的なオムニチャネルの推進フェーズに入りますが、推進実務の難易度は高まります。それは、EC部門だけの問題ではなく、全社単位を巻き込む必要があるからです。そのため、前述1のような横断的に指揮をとる人材が必要になってくるわけです。


物流改革/MD・人事など関連部署の巻き込み

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「物流改革、MD、人事など関連部署の巻き込み」がすべて整わなくても、次の接客での活用がスタートすることはあります。しかし、既存チャネルに合わせたの「ヒト・モノ・カネ」の流れができてしまっている中で、オムニチャネルに合わせた「ヒト・モノ・カネ」の流れにしていくには、関連部署の巻き込み(共創)が必要なのは間違いありません。


■ 物流改革

冒頭のコメ兵 藤原義昭さんの言及のように、まずは全社在庫を一つのバケツに入れ各チャネルが顧客の要望があったときバケツから要望のあったチャネルへ移動させる事ができる状態にするには、物流改革が必要になります。

と言いつつも、商材特性や顧客特性によって求められることが異なりますし、各社の状況が異なるので、他社事例をうのみにするのは危険です。一方、共通するのはすべてのチャネルの在庫を、システムによってバーチャルで連携し、顧客のニーズに合わせて移動できるようにしておくことでしょう。

私自身、オムニチャネルに必要な物流改革まで経験はできていませんが、よく出てくるキーワードに対して何を考える必要があるかを記載しておきます。

〇取り寄せ/店舗受け取り
・移動の送料・手数料は誰が負担するか?-ー企業側、顧客側
・企業側負担の場合は、移動送料を負担可能か?--商品粗利単価
・どんな取り寄せニーズがあるか?--客注、現物確認、店舗間移動のツール(社内向け)
・どこから在庫を引き当てるか?--EC、倉庫、店舗
・在庫を出す側と在庫をもらう側の評価はどうするか?ーー在庫を持つ側優勢、販売側を優勢、折半

〇 RFIDの導入
・どの単位での管理が必要か?-ー絶対単品単位、ロット単位など
・どの範囲まで改善できるか?-ー物流まで、物流~店舗まで、仕入れ~物流~店舗まで


■ 人事

評価制度の設計は重要です。ただし、オムニチャネル推進とEC運営が同じ部署であれば、ECに関わる評価の取り分を下げた方が話は早いです。ただし、ECの成長性を見るためにも「EC関与売上」のような指標の採用も併せてやるとよいでしょう。

〇評価
・どこまでを店の評価とするか?--店舗受け取り、アプリ・会員獲得(その後の売上)、店舗→ECの取り寄せ
・個人と店の評価をどう分けるか?--スタッフコーディネート経由の売上、アプリ・会員獲得(その後の売上)
・カネにどう反映するか?--全社の営業利益や目標との整合性、インセンティブにするか評価指標に組み込むか

メガネスーパーの場合のEC関与売上や、オムニチャネル施策の評価は下記のように分けています。

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接客での活用

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接客の場で活用する。これは、実店舗で取り寄せのようなオンラインの機能を使うような場合もあれば、マーケティング的に買った後もつながり続けるための機能を使う場合もあるでしょう。一方で、違和感のある体験は逆にマイナスにもなりかねません。ユーザーニーズ、チャネルの特徴、自社の強み・プラットフォームを把握した上で、人間力を使って最適なサービスを提供するフェーズ言えるでしょう。ここがうまく機能しないと、最終的にはオムニチャネルによる成果はなかなか得られないはずです。

日本ですでに実績を出されているのは、カメラのキタムラ、丸井、コメ兵、ビームス、無印良品などの企業です。各社の取り組みは、WEB掲載も多いので、ご自身で確認されてみてください。

この段階に進める前に、デベロッパーへの出店が多い場合はその理解や、店舗スタッフのマインドを変えていく準備が必要になります。また、データの解釈、店頭でのご案内方法、オンラインのサービス、システムなどを含めて、とにかく仕組み自体が複雑になりやすい落とし穴があります。複雑になればなるほどスタッフもユーザーも使いにくくなってしまいます。
そのため、「テクノロジーの活用、プラットフォーム構築」の段階でアウトプットのPDCAを回しておくというのは、複雑性を回避するためにも役立つと考えています。

また、“徹底”にも限界があると感じています。それは、今の店舗業務は多岐にわたるからです。最近は「従業員体験」というワードも出てきていますが、「何かしらのテクノロジーを使った仕組みを使うことで、誰でも同じレベルでのサービス提供が可能になる」という観点が必要でしょう。人材採用難という課題もここに関わってきますが、顧客の利便性だけでなく、従業員の利便性を追求する仕組みをつくる重要性が、より増してきています。


今日からやること

これは私が経験した上での6段階のステップです。同時並行で進めることはできても、順番を飛ばすことはNGだと考えています。もし、今回のようなステップを意識していなかった方は、下記をやってみてください。

(1)現状把握:今、自分たちはどのフェーズにいるのか?
(2)過程の確認:飛ばしているステップはないか?次のステップまで手をつけてしまっているか?
(3)アクション:(2)で飛ばしているステップがあればそのステップを早急に実施する。飛ばしていなければ、今のステップを具現化していく


このお題でのセミナーレポート(Yappli主催リテールマーケティング Onlineセミナー)

2020年3月4日(水)に、ヤプリ 島袋孝一さんのモデレータのもと、青山商事 藤原尚也さんと、この記事を深めるためのオンライン上でトークセッションをさせていただきました。

その時のグラフィックレコード(グラレコ)はコチラ↓

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グラレコを担当していただいたのは、フリーのグラフィックレコーダー上園 海さんです。(Twitter:@_okinawaa
http://orangemotion.mystrikingly.com/

その時のレポートが日経COMECOに掲載いただいております。


関連コンテンツ

オムニチャネル関連、EC戦略構築から実践に至るノウハウを下記にまとめております。


■EC売上アップ

■オムニチャネル戦略

■EC関与売上

■アパレルEC各社の取り組み

川添隆がアパレル各社のEC・デジタル責任者や経営者と対談しております。


※本記事の引用・二次利用について

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Eコマース先生 川添 隆(Twitter:@tkzoe

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