店舗とEC、オフラインとオンラインの対立をどう克服するか?
ECビジネスの可能性を布教し、全国のEC担当者を応援するEコマース先生(旧Eコマースエバンジェリスト)の川添 隆(Twitter / YouTube)です。
この「ZOEの一問一答編」は、主に店舗メインの企業におけるEC事業を対象に、過去の寄稿記事を再編集したシリーズ。
数年前から今でも、セミナーや勉強会でよく聞かれる質問です。
システムやツールでは解決できない組織や人の問題だけに、解が欲しい気持ちはわかります。ただし、残念ながら瞬時に形勢逆転するようなホームランがあるわけではありません。
今回は、地道に理解を得ながら、巻き込んでいく方向性をお伝えしていきます。相互理解、評価と仕組み構築、この2つに分けて克服が必要です。
はじめに(こんな人にオススメ/記事の概要)
今回は、下記のようなコンテンツです。
■ 対象となる人
・オムニチャネル推進やDX推進において、社内の組織対立 or 非協力的な対応に対する対処方法を知りたい方
・推進を検討しているが、どんな準備が必要か知りたい方
・オンラインとオフラインにおける小売業の動向を知りたい方
■ 内容
オンラインとオフラインとの間での評価や利益を生む仕組みの構築、相互理解の考え方や事例を示すコンテンツ
■ 該当する戦略のレイヤー
大義からブランド戦略まで(下記の紫の枠)
各部門の相互理解とは
相互理解はどちらかが積極的に歩み寄る必要がありますよね。しかし、目の前の目標にとらわれると、いわゆる敵対関係や、無関心という状況になりやすいです。
■経営者発信で“全社一丸”
“全社一丸”でシンプルに同じ方向に向かうのが理想的なので、その場合は経営者のチカラが必要です。例えば、メガネスーパーでは「すべての人にアイケアを提供する伝道師」になることが大義であり、「中長期的な利益の追求」が憲法になっています。
2013年の入社当初は「ECは敵」という店舗のマネージャーもいましたが、企業再生の中で、チャネル間での取りあいの概念はほぼなくなっていきました。それは、「赤字から脱却するためには、全員で利益に向かっていかなければならない」というのが、徐々に1人1人に浸透していったからでしょう。同じ企業の仲間であり、戦う相手は外にいることを全員が忘れてはならなりません。
“全社一丸”となるメッセージがある場合は、そのキーワードやエッセンスを大いに利用したほうがよいでしょう。これがいわゆる錦の御旗。例えば、それが「利益」であるなら、利益に近い理由をわかってもらえるまで伝えるということです。
ただし、実際は“全社一丸”というのは、そう簡単ではありません。一方で、企業には必ず“潮目”があります。“潮目”が変わるときの準備がなければ、次のステップは遠くなるでしょう。
■キーマンを動かすには、合理性と人間関係の武器を両方持つ
「さぁ、経営者を巻きもう!」と言うと心が折れますよね。大きなヤマは組織全体で、それを動かすための手前に経営者を動かすことがあると思っていただけるとよいかもしれません。さらに、その前には“キーマン”の存在があります。
店舗系のメンバー、特にキーマンとは仲良くなること、自ら店舗に貢献したり、解決できる他部署の仕事や課題を巻き取るすること、これを意識的に取り組んできました。特に、実力と影響力を兼ね備えたキーマンから仲良くなり、メッセージを波及しやすくするのは常套手段です。「会社の意思決定に乗っかる方法」を教えてくれるかもしれません。戦わずして勝つには、有力で生きた情報が必要というのは、世の常ということです。
また、関連部署や店舗への貢献は何でもよいわけです。例えば、店舗に関しては、セールヘルプ・ストックの整理だったり、チラシポスティングをしたり、LINEのメッセージ配信やコーポレートサイトの修正などの集客支援などがあります。関連部署に関しては、相手があまりやりたくない仕事を巻き取ったり、ポテンエラー(うちの部署じゃないよねと見過ごすやつ)をひろうのもよいでしょう。
「地道な方法ですね」を思われるでしょうが、1スタッフからEC担当者になった私からすると、そういう手段しかなかったとも言えます。しかし、そうやって少しずつ理解してもらう下準備をしていきました。
■無関心、ちょっかいも当たり前
「ECやオムニチャネルに対する無関心」「やったらやったで色んなちょっかいを出される」というのは、むしろ当たり前と認識した方がよいです。そういった“鈍感力”はその先も重要になります。
誰しも直接関係がないことは無関心なもんです。関心を引くには事実を先に作った方が早い。例えば、メガネスーパーではLINE送客や店舗受け取りをスタートして、送客があることを実感してもらうようにしました。
特に、事業成果というのは嘘はつきません。いろんな小売企業のEC担当者に話しを聞きますが、「明らかに結果を出し続けていると、文句は言っても納得はしてもらいやすい」という話はよくききます。同じ商売人の仲間ということです。
■理解してもらうのは後から
かなり浸透していった状態、もしくは理解しないと事業が成立しない状態でないと、相手から理解したいという姿勢にはなりません。
こちらから積極的に、各事業部門や店舗のことを理解しに行く。そしてそのヒントを基にして、先にギブをする。こうやって、ちょっとずつ人として理解してもらい、事業も理解してもらう。
国内の企業に関しては、地道ながらこれらを早くやるほうが、先がみえやすいのではないはずです。
評価と仕組みの構築とは
評価と仕組みの構築については、「仕組み=システム」と理解された上で、一般的には評価の話に偏ることが多いです。だから、その誤解を解くことからスタートが必要です。
評価は確かに必要です。ただし、評価制度を構築すれば、オムニチャネルが推進でき、自社の利益増につながるとは限りません。仮に、全社の利益が増えずに、「評価の分け前」が増えれば、むしろ利益減になることもあるからです(評価を作るときにはその点の注意が必要)。
そこで重要なのは、「新たな利益を生むための仕組みづくり」だと捉えています。オムニチャネル推進施策を実行すると、企業全体の利益が増えていくような仕組みをセットで考える必要があります。効率化によるコストダウンでも良いし、利用回数増による利益増でもよいわけです。
※注意点としては、利益増の効果を計測するのは非常に難易度が高いため、予めロジックを作っておくとよいと考えています。
■店舗ダウンロードのスマホアプリ経由売上は、誰の評価?メガネスーパーコンタクトアプリの評価と仕組み
メガネスーパーを例にとって仕組みの話をします。コンタクトレンズにおけるオムニチャネル施策として、「コンタクトかんたん注文アプリ」というスマートフォンアプリを展開しています。アプリ経由の売上は、PL(損益計算書)としても店舗の売上・利益に計上されます。
ちなみに、このアプリは次の3つの着眼点から展開に至りました。
1.定期購入では対処できない「自分のタイミングで注文したい」顧客ニーズが存在するようである
2.自社ECと店舗との併用顧客は、店舗利用のみ利用の顧客と比較すると、年間購買回数・金額が2~3倍で利便性で使い分けているようである
3.店舗での接客の一連の流れで、オススメできるサービスが必要
アプリ経由の注文は配送ですが、店舗とアプリの双方をご利用いただくことで、お客様の利便性向上と、1人あたりの年間購入回数の増加を狙い、実際に増加しています。さらに、よりストレスフリーでお得な定期便の加入につなげたいのです。
そして、リピーターのお客様を配送でご対応できれば、店舗運営にも良いことがあります。店舗では新規のお客様や、時間を要する眼の検査・メガネのレンズやフレーム提案に専念することができるわけです。
これは、「利益増と効率化の双方を狙った仕組み」としての取り組みということです。
カメラのキタムラを参考にさせていただいたのですが、彼らの写真注文アプリも「利益増と効率化の双方を狙った仕組み」です。
“対立”ってむしろ健全?!
オムニチャネルの推進は経営戦略であり、仕入、物流、人事、デベロッパー交渉など、多岐の範囲に関わる必要があります。それぞれの担当者との「一時的な対立」は悩みの種ではあります。
しかし、これまで意思をもってその部門や商売を作ってきたからこそ、“対立”があるんではないでしょうか。だから“対立”があるほうが健全と見てもよいのかもしれません。やってみて感じるとは、“対立”していた人が理解してくれると、「意見を言ってくれる仲間」に変化します。
うまく対立の矛先を変える。そのためには、相互理解や仕組みづくりについて、今一度見直してみてください。
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