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世界をまたがるモール“Amazon”に負けないための戦略・戦術はあるか?

ECビジネスの可能性を布教し、全国のEC担当者を応援するEコマース先生(旧Eコマースエバンジェリスト)の川添 隆(Twitter / YouTube)です。

この「ZOEの一問一答編」は、主に店舗メインの企業におけるEC事業を対象に、過去の寄稿記事を再編集したシリーズ。


はじめに(こんな人にオススメ/記事の概要)

今回は、下記のようなコンテンツです。

■ 対象となる人
・自社のECサイトや店舗のあり方を見直そうとしている方
・出荷のリードタイムや受取方法などのECとして提供するサービス品質を、どこまでキャッチアップすべきか悩んでいる方
・オンラインとオフラインにおける小売業の動向を知りたい方

■ 内容
Amazonの存在や弱点を理解し、負けない戦略・戦術に関する考え方や事例を示すコンテンツ。
今回の内容と関連する記事を2017年に投稿しています。

■ 該当する戦略のレイヤー
企業戦略からチャネル戦略まで(下記の紫の枠)

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事業者にとってAmazonは味方?敵?

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コロナ禍における国内EC事業への期待感や、アメリカでのウォルマート VS Amazonの攻防により、Amazonの注目度がさらに増しているのは間違いないでしょう。一方で私個人としては、「国内の実店舗が中心の小売企業はAmazonを意識しなさすぎではないか?」と数年前から感じていました。

Amazonは世界最大級のECモールだけでなく、ITインフラAWSを提供し、今後の生活を変えていくデバイスAmazon Echoを世に放ち、Amazon Goで実店舗の未来を提示し、ホールフーズの買収・Amazon Goの多店舗展開によって実店舗を積極的に活用していく流れはご存じのとおりです。

事業者側から見ると、「Amazonに出店して商品を販売する」「自社ECにAmazon Payを導入してユーザーの利便性を担保する」「自社のサーバーとしてAWSを採用する」などの動きは当たり前であり、自社の事業に貢献してくれるプラットフォームであることは事実です。

その一方で、AmazonがPBの展開やブランドを買収したり、実店舗の展開を早めている動きを無視していたら、知らぬ間に自社の領域が侵されているということは大いにあり得ます。これはAmazonだけではなく、中国のアリババやテンセントにおいても、いつ自社の脅威になってもおかしくない存在です。

ある側面においてはビジネスに欠かせないインフラであり、ある側面においては自社を脅かす存在という両方の側面を正しく理解しておく必要があります。


小売りとしてAmazonに負けない戦略・戦術はあるか?

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前提として、規模の論理における勝ち負けはAmazonが圧倒的強者のため、ブランドや小売事業者はどこを死守する必要があるかについて考える必要がります。

小売りとしてAmazonに負けない戦略・戦術はあるか?

結論として、オフラインの顧客接点と専門性の高い接客が可能なスタッフを持っている企業は、自分たちの得意領域で負けない戦いはできると考えています。例えば、店舗・移動販売手段・ポップアップ・ショールルームなどです。専門性や嗜好性が高いほどユーザーの事前期待が高く、販売や接客のためのスキルが必要になるため、Amazonに対して有利になるでしょう。

一方で、将来的に自動化でもモノやサービス提供が可能な小売り店舗や、ただ販売するだけのEC専業企業なると、同じ土俵の戦いになっていくのは明白です。戦える土俵を選択することが求められます。


EコマースとしてのAmazonの弱点とは

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私が考えるAmazonの弱点は以下の8つです。

1.オフラインの接点(店舗)が少ない ※ホールフーズ含めて500弱ほど
2.ユーザーが受け取る手段は配達(宅配)に依存している

3.商品は出店者に頼っている(在庫の決裁権がない) ※但しPBは強化中
4.商品カテゴリのニーズ、ブランドの知名度、価格競争力がないとAmazon内では売れない
5.Amazonとして不得意な商品カテゴリがある
6.商品一覧用の商品画像は白背景が必須(今のところ)
7.システム・サイト内のルールはローカライズしない(らしい)
8.属人的な決裁には時間がかかる(らしい)

なるべく多くの項目で対抗できれば、負けない戦略になり得ると捉えています。チャネルごとに打ち手を想像してみましょう。


■ EC専業企業

先に負ける戦略から考えるとわかりやすいです。どこにでもありそうな商品を取り扱い、とにかく利便性を追求しようとすれば、Amazonに勝てる気がしません。また、独自性のある商品でもスペックやデザインのみにフォーカスしていると、Amazon側がインスパイア商品をPBとして展開する可能性があります(すでにオールバーズに関しての事例があります)。

一方で例えばD2Cブランドのように、具体的なユーザー課題の解決に向けた独自性のある商品をつくり、ロケ撮影も含めたイメージが明示できるような商品画像・自然体の商品画像を使い、直接顧客をつながって継続的なコミュニケーションをとるような手法が考えられます。他にも、TANPやCake .jpのように、専門性×ユーザーニーズを追求したECサイトも可能性があり、実際急成長しています(この場合、買収提案はあるかも)。また、Amazonの不得意なカテゴリにおいての地位を確立することも1つの手です。


■ 店舗などのオフラインの顧客接点を持つ企業

これもAmazonがすでに参入してきそうな領域は注意が必要です。ホールフーズやAmazon Goの展開を考えると、下記が全て揃う業態に関しては、Amazon店舗が日本に参入していた際に競合する可能性が出てきます。
・ローカライズしなくてよい(共通の品ぞろえ・店構え)
・ユーザー側は非計画購買がメイン
・店舗運営のオペレーションが固定化できる

一方で、1人1人のお客様の状況やニーズをヒアリングした上で、課題解決の提案が必要な専門性の高い業態は有利だと捉えています。これを取り扱う商材だけで捉えると見誤る可能性があります。例えば同じアパレルであっても、ユーザーが自己完結(セルフ)で購入できるブランドと、デザインのニュアンスを伝えたり体型の相談をしたくなるようなブランドでは、後者の方がAmazonから見ると障壁が高いと捉えています。

また、モノだけでなくコトがセットになっているようなサービス・コミュニティの展開や、ウォルマートのような店舗網をいかした受取サービスや受取の早さは有利になるでしょう。


店舗軸の指標から顧客軸の指標へ

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リアル店舗だから「Amazonは競合ではない」という時代は終わったと見ています。EC専業の企業も独自性の追求が必要ですが、より変革が必要なのは店舗主体の企業でしょう。なぜなら歴史が長い分、セオリーや商流が固定化されているからです。

店舗主体の企業はビジネスモデルや組織の見直しも必要ですが、特に店舗ビジネスの根底にある出店戦略やPL(損益計算書)の評価も変える必要があるでしょう。なぜなら、ユーザーからすると1回の購入に至るまでに店舗やECなどを行き来するのがフツーになってきたことや、店舗がメディアとしての役割を果たすこともあるからです。

すでに従来型の小売企業の考え方から脱している事例は存在します。例えば、D2Cブランドとしても注目されるカスタムオーダーファッションサービスFABRIC TOKYOは「売らないお店」を展開しています。身体の採寸や生地選び、サンプルの試着、ニーズに沿ったアドバイスは店舗で行い、購入はECサイトで行います。カスタムオーダーというサービス特性が前提ですが、顧客の関係性を指標(LTVや継続率など)として重んじており、単店舗での損益で評価をされていないそうです。

他にもオンライン主体の企業が店舗やポップアップストア、しかも「売らないお店」を出店するケースは増えており、サービス認知や購入前の体験の提供が狙いのようです。この取り組みのコストは、従来の地代家賃や人件費などよりも、広告宣伝費や販促費の位置付けの方がしっくりくるのではないでしょうか。


コロナ禍をターニングポイントにして「Amazonに対する強い武器」を得られるか?

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すでに小売業界の中でも、少しずつ変化がおきはじめています。FABRIC TOKYOは一例とは言え、D2Cやサブスクのスタートアップは、LTVや継続率やNPSといった顧客軸での指標を重んじており、従来型の小売企業は店舗軸での指標を重んじているのは対照的です。従来型の小売企業側がD2C企業のやり方を表面的にマネしても上手くいかないので、現実的に顧客軸の指標を事業に取り込んでいく必要があると捉えています。なぜなら一般の生活者は、特定のチャネルに縛られて購買行動をしているわけではないからです。

接客を重んじてきた店舗主体の企業がデジタルを実装し、ユーザーニーズを深く把握して独自性のある商品・サービスを改善していく仕組みを作ると、「Amazonに対する強い武器」になり得るでしょう。店舗のあり方を問われたコロナ禍をターニングポイントにするのか?ただ単にコロナ終息を待つのか?の選択は、今後の生き残りに影響するでしょう。


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Eコマース先生 川添 隆(Twitter:@tkzoe

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▼自著:「実店舗+EC」戦略、成功の法則

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