どこまでファンの要望を具現化するか、マイナス体験を補完するか?
「大企業は図体がデカいから、スピードが遅い」という定説は、一概にそう言えなくなりました。特に、テクノロジーという武器を得た大企業は、新たなチャレンジに対するスピードが早くなっているのは、皆さんも感じていらっしゃると思います。
個人的なファンでもあるナイキは、現代のユーザーにフィットしたブランド体験や商品づくりなどに対して、この数年注力しています。
サステナビリティに向けた再生テック
「スペース ヒッピー」というシリーズは、全体の約9割が再生素材でつくられており、製造過程での炭素排出量を従来のほぼ半分に抑えたというモノ。ナイキの「再生テック」という新たなプロダクトであり、デザインフォーマットになっているのでしょう。
環境にやさしいことは、今後のビジネスで必須になってきますが、スニーカーであれば“カッコよさ”が求められる価値の前提になっていると認識しています。スペヒッピーは今後デザインがブラッシュアップされていき、おそらく数年後にはスニーカー好きが唸るようなデザインが登場してくると予想します。
※ナイキは過去のデザインを踏襲しがちと思いきや、最新技術シューズもスニーカーらしいカッコいいデザインが出てきているため。
ファンをワクワクさせるデザイン力は、ナイキの強みの一つでしょう。テクノロジーに頼りすぎず、強みが引き出された好例ではないでしょうか。
アプリを熱狂の場に
アプリでは、先進企業ならではの新しい体験提供(AR機能を使った宝探しゲームのイベント「Stash」など)もやっています。ただし、ファンのライフスタイルを紹介するような、ブランドとして丁寧なコンテンツ提供を両立していることが素晴らしいと感じます。
「ファンのコンテンツ化」に関して、ラグジュアリー領域ではBurberryが約10年前から取り組んでいますが、近年は日本でもビームスがスタッフのライフスタイルを書籍化するような取り組みなどがあります。
独自性を際立たせる手法の一つとして、ファンのためのコンテンツやサービスというのは、市場としても増えてくるでしょう。
一方で、SNKRSに求められることは、「欲しい人のみが参加できる」という機能だと個人的に思います。スニーカー好き界隈では、「バイヤーによる転売」という現実を見ることがマイナスの体験になっているとも言えるでしょう。C2Cを含めてリセールをしやすくなって便利になった反面、ファンのガッカリが表面化しているのも事実。
どこまでファンの要望を具現化して、ビジネスとの折り合いをつけるか?も重要な課題だと感じています。
店舗体験の“マイナス=フリクション”を減らす
スニーカーや靴において、「サイズを試したいのにスタッフがいない」というのはマイナス体験です。それをアプリを通じて解消できるのは、ユーザーのマイナス体験を補っているでしょう。
一方で、「店内でスマホを操作する行為自体がスマートな体験か?」というのは、今後の小売×デジタル領域の課題の一つだと感じます。
※Generation Zだと違和感ないのかもしれませんが。
このフィット&ギャップは、いち早くサービス提供した企業がわかる領域とも言えます。10年前に比べれば安価に色々なテクノロジーを使えるようになったのは、企業に対するテクノロジーの恩恵でしょう。しかし、研究開発に投資できるグローバル企業は、強者の戦略として好循環をつくりやすくなったのも認識しておく必要があります。