【経営者・採用従事者向け】あなたの会社がEC・デジタルのスタープレイヤーを採用できない本当の理由ーー5つのギャップについて
もうこの4~5年ほど、この界隈の友人やヘッドハンターからは「いい人いないですか?」と聞かれますし、ここ2年ほどは小売・メーカーの経営者やファンドからも、こういう声が直接聞こえてくるようになりました。
慢性的に解決していない課題が、EC・デジタル管轄責任者の外部からの採用です。
※ちなみに、担当者採用もままならない状況。
“思い”を書きすぎるとこの記事が終わらないので、本題にフォーカスします。
本文を読む前の留意点
今回は多少繊細な話でもあるので、下記の点にご留意くださいませ。
1.私個人の利害のために書いているわけではありません。また、私個人は「裏話の暴露」みたいなネタを書くのは好きではありません。ただし、ECエバンジェリストの役目として、単純に知ってほしいだけです。
2.株式会社ビジョナリーホールディングスとは一切関係のない内容です。あくまでも個人意見です。
3.私自身は「人材採用業界」の当事者ではありません。あくまでも、この2~3年くらいで、事業会社や人材紹介会社など複数の人から聞いた情報を基にした記事と認識ください(一部、現況と異なる可能性もあります)。
4.この記事を通じて伝えたいことは「だからダメなんだよ」ではなく、「建設的に前向きに進めてこう」ということです。
5.経営者・採用従事者以外の方が見られてもよいですが、「そうだよね」で終わってしまうので、ぜひ当事者にシェアいただけると本望です。
もしくは、ご自身が1日も早くスタープレイヤーになってください。私は、交流と学びの場や、存在の告知でご協力はできます。
採用できない本当の理由→5つのギャップ
小売・メーカーの事業会社をやられている経営者の皆様。
あなたの会社がEC・デジタルのスタープレイヤーを採用できない本当の理由は、4つのギャップを理解して対策をしていないからです。
ECエバンジェリストの私が捉えている5つのギャップは下記です。
1.スタープレイヤー、実店舗+EC領域の有力経験者が存在するというギャップ
2.年収のギャップ
3.ポジション・役割のギャップ
4.文化のギャップ
5.経営者自身のコミットメントのギャップ
この5つのギャップはそれぞれが密接につながっているだけに、全てに対しての理解と対策が必要です。
それぞれ、あるあるの現状と、私が考える対策を提示します。
※貴社の求人内容を片手に見るとよりよいです。
スタープレイヤー、実店舗+EC領域の有力経験者が存在するというギャップ
ここでは次のように定義します。
・実績と知名度(セミナーと媒体での取材)がある方を“スタープレイヤー”
・認知はないけれども実績を出している方を“有力経験者”
その上で、「スタープレイヤー・有力経験者は一般転職市場に存在して、採用活動で判断できる」と思っていませんか?
それは大いなる誤解です。ここでのギャップは、「存在の認識」と「判断力の認識」についてです。
まず残念ながら、スタープレイヤー(実績と認知がある人)は一般転職市場には出てくることは稀です。私がつくった「 #デジタル界隈タレント名鑑 」で取り上げた人たちや、私の名刺リストなどをざっと見ると、「小売・メーカー×デジタル」の領域で、転職や兼任の対象となるスタープレイヤーと思われる人は65名前後でした。すでに1社で複数人を抱えているところもあります。
彼らは、ネットワークを持っているので彼ら自身で探せますし、ヘッドハンターとつながってアクセスできない企業の案件を聞いたり、他の友人を紹介するような立場です。また、現職があってもコンサルティングの相談がくることもあるため、最近は副業をやっている方や独立してパラレルでコミット&支援をされる方が多くなっています。
彼らにアクセスするための最低限の手法は、あなた自身でマーケティングイベントの参加、または知人からの紹介によってネットワークを開拓するか、ヘッドハンターに依頼するしかないと考えてください。
次に有力者が一般転職市場に出てきているのを見かけることは少ないです。これは母数が少ないということもあるでしょうし、「ベンダーの方やスタープレイヤーからの斡旋→ヘッドハンター・紹介会社→転職」ということも想定されます。
仮に、有力者が運良く見つかって、選考に上がってきたとしましょう。その時、あなたは書類や面談・面接で“有力者”と判断できるでしょうか?私の経験では、判断できる人は稀です。実店舗+ECやデジタル領域の知見がない、自社の現状や運営を知らない、そもそもマネジメントができない・・・そういった方では、相手の力量・人間力を見極めるのは困難です。
また、あなたが知るべきは、「相対的な規模や数字だけでは実力を判断できない」ということです。例えば、会社名はメジャーでもEC事業は自走できていない、規模もEC化率も高いがブランド依存が強い、逆に、ECをやめてしまったがデジタル推進は先進的、規模もEC化率も低いが地力があるということがあります。その中で見極めるには、本質を捉える力、またはデジタル関連業務に関する知識が必要です。
年収のギャップ
あなたは、自社の基準で採用ポジションの年収を決めていませんか?もっと外の世界を見てください。この界隈の年収ギャップについてです。
前述の通り、そもそも実店舗+ECの有力経験者・スタープレイヤーはレアキャラです。そこで、「本意ではないが、小売(またはメーカー)の経験はなくても、デジタル領域専門の経験者でもあり」みたいな話をしていたら、採用はほぼ無理です。
今、彼らは、ただでさえ小売・メーカーの水準より高い前職年収に100〜200万円上乗せで採用されることもザラにあります。すなわち、あなたの会社と比較すると年収で200〜500万ほど差がでてくることもあるということです(全てではないですし、金額は人によります)。
さらに、大手ITコンサルティングなどは、人材紹介会社への報酬も高めに設定している場合があり、候補者が回ってくる順番が遅くなるなどのバイアスがかかる可能性があります(これも全てではないですが、人材紹介会社への補修割合を高める手法自体はあります)。
採用におけるあなたの会社の競合は、大手ITコンサルティング・デジタル支援の会社、グローバルプラットフォーマー、大手広告代理店、スタートアップ企業など、デジタルを主戦場とする猛者ということです。
「うちは年収よりもやりがいや役割を提供できる」ということはありえますが、それが年収200〜500万の“差”に値するかは見極めてください。
ポジション・役割のギャップ
仮に、スタープレイヤーや有力経験者とつながり、年収のギャップもクリアしたとしましょう。あなたは、彼らに「過去の成果の焼き増し」を望んでいませんか?前職と同じポジション・役割で採用しようとしていませんか?ほとんどの人はフルタイムで入ってまで、そんなことを望んでいないです。この界隈のポジション・役割のギャップについてです。
「過去の経験や成果が“信用=credit”になる」というのは、世の中の原理原則であり、誰でも理解しています。しかし、“未来が見えている人”に対して“過去”を求めるのは、本人にとって窮屈だと思いませんか?
特に実店舗がメインの企業で、EC・オムニチャネル・デジタルトランスフォーメーションの道をかき分け、組織を巻き込み、実績を出してきた人は、“その次”を見ています。例えば業界のスタープレイヤー、オイシックス・ラ・大地と顧客時間を兼務されている奥谷孝司さん(@maustanuo)は下記のようなことを考えられていますが、あなたは理解できますでしょうか?
すなわち、スタープレイヤーや有力経験者を採用したければ、前職よりも権限のあるポジション、広い役割を用意する必要があります。周辺領域でいけば、マーケティング、PR、店舗運営、新規事業などがあり、既存のメンバーの役割に影響がでるなら、予め組織の見直しをしておきましょう。それができないなら、採用要件を低くするか、求人票を取り下げた方が身のためです。スタープレイヤーは求人要件だけでも、あなたの会社の現状や経営者の器を判断できてしまうので気を付けましょう。
文化のギャップ
これはよく言われることなのでおさらいなので、飛ばしても構いません。
幸いにも小売を経験していないIT経験者にコンタクトできた場合と捉えてください。結論から言えば、あなたはスペック重視で採用するか?企業文化を重視で採用するか?に迫られます。そして、基本的には前者で採用すると、定着が悪いことが多いです。この界隈の文化のギャップについてです。
多くの小売・メーカーの企業の方に話を聞いてきましたが、特に従来型の小売企業は、「全員野球かつ縦割りの組織」、「体育会系(あからさまでなくともノリも含め)」、「変化よりも安定」というところが多いです。もちろん企業によりけりはありますが、本社メンバー全員がセールの手伝いに行っているのに、「デジタル担当だから手伝わない」という選択肢はありません。また、ビジネスの商流や業務が相対的に非効率なことが多く、縦割り組織の担当者は「よりよくする」よりも安定稼働を優先する傾向にあります。業務の生産性に関しては、小売企業とIT企業で比較して書かれた記事があるので見てみてください。
企業文化とは、働く環境やビジネス環境の根底です。あなたの会社の文化に合わせて採用するか?採用に合わせて文化ごと変えてしまうか?を選択してください。
経営者自身のコミットメントのギャップ
これはよく言われることなのでおさらいなので、飛ばしても構いません。
これまでの“ギャップ”を埋めるには、経営者としてのコミットメントや危機感が不可欠です。では、あなたは経営や従業員の生活維持・向上、顧客への価値提供に対して、中長期的な目線でコミットできていますか?経営者のギャップについてです。
経営者は、“オーナー気質の経営者”と“サラリーマン気質の経営者”の2つに分かれると捉えていますが、「デジタルへの本気度」に関してはこの2つに依存するとは感じていません。重要なのは、大局観、世の中の現実と自社のギャップを捉える力、足らざるを知る力だと捉えています。
例えば、今は「お金の使い方」が10年前と変わってきている中で、業界の競合よりも、よっぽどスマホゲームが競合になりえます。アリババは全世界72時間以内に配送することを目指しているということは、そこのモノも競合になります。すでに業界の壁はメルトしているというのが、近年のビジネストレンドです。
こういった部分を捉えていない経営者の場合、スタープレイヤーや有力経験者は面接で見抜きます。逆に、「そういう流れを捉えているから自分の判断でできる」と思っている経営者も不安です。少なくとも、スタープレイヤーや有力経験者は、「自分個人でキャッチアップするのは無理だから、色んな情報源を使ったり仲間を増やす」という発想です。
下記の対談でも話をしていますが、起点となるのは経営者のコミットメントであり、そこにスタープレイヤーや有力経験者は共感したり、奮い立ったりすると見ています。
それぞれの対策は?
経営者の皆さまであれば、状況がわかれば対策はわかるはずです。しかし、念のため、この記事のまとめを兼ねて私の考えを列挙しておきます。
■スタープレイヤー、実店舗+EC領域の有力経験者が存在するというギャップ
◯あなたの「足らざる」を知ってください。そのために、時間をとってご自身で下記のようなマーケティングイベント、ECイベントに参加しましょう(今はイベントの宝庫です)。「時間を使う投資」できないのであれば、その事業や改革にはそもそも相応の価値がないということです。
〇あなたの会社で、必要な役割を再定義してください。万能者を採用するのが難しいのであれば、本当に必要な部分だけ補う手があります。社内調整・マネジメントは既存のメンバーでも可能かもしれないので、デジタルを使った戦略・施策に特化したマネージャークラスを探す方が難易度は低くなります。
※前提として、自社のEC・デジタルの現況・課題を正確に知る必要があります。
〇上記の2つをあなた自身ができないのであれば、外部のプロに任せてください。事業会社側でECやデジタル領域の事業責任者を経験して、独立している方は増えています。その方たちに、現況の見極めから必要な人材を見出してもらい、採用にも関わってもらうと、ミスマッチや何も進まないというリスクは避けられます。
■年収/ポジション・役割のギャップ
〇自社の年収レンジはいったん置いておいて、オファー年収を上げるのと、前職よりも広い権限やポジション・役割を用意していくのはセットです。ただし、どうしても年収を上げられない場合は、ポジション・役割でカバーすること自体は不可能ではないでしょう。
私が知る限り、近年のスタープレイヤーの転職において、一番の成功事例は中川政七商店の緒方恵さん(@notmegumi)だと思っています。
成功の秘訣は、社長判断によって「緒方さんへの積極的な権限移譲を断行したこと」により、やりがいと活躍のしやすさが結びついて、様々なギャップを埋めるに至ったということ。
ぜひ参考にしてみてください。
■文化のギャップ
〇現実解として一気に文化を変えるのは難しいため、あなたの企業文化にフィットする人を採用するほうがベターです。しかし、それにピッタリなのは、今社内にいる人。すなわち、採用ではなく教育に投資をする方法があります。一通り必要なスキル研修として、WHITEが展開しているデジタルスキルアップ研修のようなサービスもあります。実際に、デジタル文脈を理解するよりもビジネスの商流を理解するほうがはるかに難しいということを理解してください。
〇いつかは、企業文化ごと変える必要性は迫られます(必要性を感じる前に会社が倒産ということもなくはありません)。経営者自身が企業文化を変えていった良い事例として、サツドラホールディングス富山浩樹さん(@tomihiro_do)の事例を掲載しておきます。
■経営者自身のコミットメントのギャップ
〇ビジネスを縮小させていくか、拡大させていくかを決断しましょう。そのうえで、外と中を見る必要があります。外は生活者の環境や市場環境、中は経営指標、自社のユーザー、社内の現況・スタッフです。
仮に、足元が赤字でキャッシュが潤沢であったとしても、あなたの”栄光の時代”に逆流することはありません。チャレンジがなければ衰退、チャレンジ・改善を繰り返しても横ばいというのが世の中の現実であり、これまでの歴史が物語っています。また、さらなるデジタル化社会、AIやVRの浸透は「来るかわからない未来」ではなく「確実に来る未来」です。そして、例外なくあらゆる業界でデジタル化は進みます。この現実をリアリティをもって受け入れられないのであれば、現時点であなたの会社の従業員の中には不満が芽生えている可能性が高いはずです。
【余談】
ECリニューアルの事故などに関しても、大元は経営者の意思決定と人選に依存します。「ECリニューアル」に関しては下記をご覧ください。
引用・二次利用について
この記事を勝手に引用、二次利用していただくのは構いません。媒体やイベント主催の方は、メルマガなどで配信していただくのもOKです。
ただし、引用元記事のリンク明記をよろしくお願いします。
ECエバンジェリスト/川添 隆(Twitter:@tkzoe)
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▼自著:「実店舗+EC」戦略、成功の法則