店舗スタッフはオンラインでも活躍できるか【対談 オールユアーズ 木村昌史×川添隆】
ECエバンジェリストの川添 隆です。#Withコロナ時代を生き抜くヒント を探っていく連載を実施します。
「Withコロナ時代に求められる接客とは?」というようなテーマで、株式会社オールユアーズ 代表取締役 木村 昌史さんにインタビューいたしました。
※第1部:今だからこそ実施した!Zoomを含めた“オンライン接客”の実例
連載第2部は、対談形式でオールユアーズ木村さんに下記をお聞きしました。
・店舗スタッフはオンラインでも活躍できるのか/そこから生まれる効果
・木村さんがチェーン店を経営していたらどうするか
ゲストプロフィール
木村 昌史
株式会社オールユアーズ 代表取締役
「インターネット時代のワークウェア」をコンセプトに、ストレスからヒトをカイホウするプロダクトを開発。CAMPFIREにて24ヶ月連続クラウドファンディングに挑戦中。アパレルカテゴリで国内最高額の支援額を調達。インターネットを利用して、アナログなコミュニケーションを取ることに重きを置く。
コーポレート: https://allyours.jp/
Twitter: https://twitter.com/kimuramasashi82
note: https://note.com/hirihiri
店舗スタッフがオンライン接客に取り組む意義
川添(ECエバンジェリスト) オールユアーズのオンライン接客の取り組みをお聞きしました。木村さんは新卒時代のアパレル企業で、店舗での販売やバイヤーをやっていらっしゃいましたね。今と過去の経験を踏まえて、“店舗メインのアパレル企業”もオンライン接客に取り組むべきでしょうか?
木村(オールユアーズ) 中小規模の企業・ブランドだったら、オンライン接客は絶対やった方がいいと思います。大手の場合は、Zoomを使うよりも、チャット接客の方が効率的で運用しやすいでしょう。
ブランドへのエンゲージメントを高められ、必ずバリューを出せるはずです。リアル店舗から始めてECサイトを構えた人たちが、今のリテール企業の大多数でしょう。しかし、EC化率が高くないのでリアル店舗がストップするとダメージが大きいです。
今店頭のスタッフのリソースが浮いているのであれば、オンラインに投入するべきです。企業のプロフィットを生み出している人たちは、元々店舗にいるわけです。今はその人たちがプロフィットを生み出す環境が必要でしょう。EC担当者以上に売り方であったり、お客様に対して失礼だというニュアンスであったりを知っています。FAQにもたくさん答えているはずです。例えば、レジでポイントカードをオススメできる人は、販売のUIも熟知していて、オンライン接客もうまいと思います。
これができれば、色々とチャレンジできる可能性が広がっていきます。
川添 「プライベートZoom接客」の話を聞いた時に、素のままのECサイトでは、その瞬間に必要な販売の流れ(UI)を実現するのは難しいと再認識しました。サイト側でページを用意しても、例えば店舗のポイントカードのように「流れるようなご案内」はできません。おっしゃるように、それをやっている人たちは社内にいるんですよね。
もう少し具体的に店舗スタッフが活躍できそうな部分はありそうでしょうか?
木村 店舗スタッフは定性データを持っています。オンラインは定量データに引っ張られがちで、定性データをもとに動線を考えられる人は少ないです。店舗の定性データと感性をオンラインに持ち込むことで、ユーザーの行動に則した動線設計ができる可能性が大きいと考えています。
しかし、組織の論理は定量データを重視する傾向があります。目に見えにくい貴重な定性データは店舗の販売スタッフが持っているはずなのにそれが重視される事が少なく、結果店舗での販売職は働きたくない職業になってしまっています。
チャットボットも使えば良いし、定量データも重要です。さらに、「人間味を持ったデータ=定性データ」を持つ、店舗スタッフの価値を再評価していくことは重要だと思っています。
川添 生の定性データや“肌感覚”は間違いなく大事ですね。ビジョナリーホールディングス(メガネスーパーのグループ)でも定量情報で状況把握しますが、必ず定性情報でクロスチェックを行う文化があります。それがないと「お客様のリアリティ」が見えてこないです。
ファッションの場合は、コーディネートも定性的なコンテンツですよね。今はスタッフスタートのようなコーディネート投稿ツールやInstagramを使って、店舗スタッフがコーディネート投稿する量や経由売上もかなり増えてきていると聞いています。スマホで完結できるから、店舗スタッフの方々もやりやすい。
木村 着こなしのサンプルが増えるのはいいことですよね。
私は、スタッフのあり方として、バイネームで語ってもらえるようにしていきたいと考えています。「○○さんがいてよかった」と言われる世界観っていいですよね。
それぞれの店舗スタッフには、必ずいいお客様とのつながりがあります。オンライン接客の場は、そのお客様とのつながりと、スタッフ個人が持っている接客のストーリーと定性データを活かせる場だと考えています。
コロナ禍でも変わらない、ブランドのストロングポイントは?
川添 ビフォーコロナではオフライン回帰が進んでいて、テックやデジタルを駆使してオフラインでビジネスをやるのがカッコイイという風潮だったと捉えています。
今はオフラインがほぼ止まってしまっているんで、オフラインと同等のことを、オンラインでやる方が価値があると思っています。個人活動ですが、1日店長のオンラインBAR(ZOE BAR)を開催して、店舗でやっていた時以上の交流、にぎわい、一体感を生み出せたんじゃないかなと感じました。
改めてコロナ禍の状況を、木村さんはどう見ていますか?
木村 最近はインタビューで、「コロナで何が変わったか」とよく訊かれますが、今大切なのは「変わらないこと」にフォーカスすることだと思っています。今は生活に対して制約が加わっただけで、人間の根源的な欲求や心が動くポイントは変わってないはずです。コロナで変わったことより、変わらないことに注目する方が本質的な対応ができると考えています。
川添 おっしゃる通りですね。皆変わったことばかりに目を向けてしまう。
例えば、コロナ以降で対応のスピードが早い企業は、ビフォーコロナでも企業の思想に軸がある、またはコツコツとチャレンジしていた企業だと捉えています。企業やブランドの根本は変わっていないはずです。
チャネルにおいても役割自体は大きくは変化していないですよね。
木村 ECサイトでは肩を押せません。スタッフの役割は肩を押すこと。人間の欲求としては「肩を押して欲しい」というのは変わっていないし、ECサイトで肩を押すとするならディスカウントでしか置き換えられていない状態です。
今は店舗でお待機しながらコミュニケーションがとれないので、ブランド側から積極的にコミュニケーションをとりに行かないといけない「ブランドや企業としてのストロングポイントで変わらないことは何か?」を発掘し、お客様に対応していくことが重要だと考えます。
川添 私は企業再生を2度経験していますが、そういう崖っぷちの時期と今は似ていると思っています。現実を突きつけられたときに、多くの人は混乱をするし、経営者すら混乱することがあります。しかし、ストロングポイントを見つけ出して、持てる戦力で戦っていくしかありません。
木村 今は主語が”コロナ”になってしまっています。本来、小売においての主語は”お客様”です。そこを間違えてはいけない。コロナは商品買ってくれません(笑)。
カンタンに言うと、「お客様がして欲しいことは何か?」それをきちんと考えようということです。
ムダ話から生まれる余白がアイデアにつながる
川添 Zoomでのコミュニケーションをしているとオンラインだからできることもあると感じています。例えば、Zoom背景画像や変身ギミックで、クスっと笑えるようなあそびを取り入れるのもオンラインならではの楽しみじゃないでしょうか。
木村 そうですね。我々の「プライベートZoom接客」でも、接客中に背景を変えています(笑)。ぜひ見てみてください。
実際の店舗はムダ話をしたりそういうあそび(余白)があります。ECが登場して以降、リアルの強みはそこにあります。しかし、コロナ禍で今は余白が減っています。
例えばオフラインのビジネスシーンでは、ミーティングが長いのがダメだと言われます。だから、今リモートワークが主になって、ミーティング時間が短くなって良いと言われています。しかし、オフラインのミーティングには”雑談”があって、そういったムダ話の中から「面白そうだからやってみよう」というアイデアが出てくるものです。今は効率的に見えますが、突き詰めすぎると新しいアイデアが出ずに非効率になってきちゃう。小売においても、店舗の販売スタッフとお客様とがこういうある種のムダな時間を過ごすのはとても大切だと思います。
今だからこそ、顧客を大切にする
川添 オールユアーズの「プライベートZoom接客」はどんなお客様が申し込まれるんですか?
木村 そもそもお店に来れない各地域の人が使ってくれています。例えば、岡山・三重など関東以外、遠いところだとサウジアラビアのお客様もいらっしゃってりします。コロナ禍で来店ができない方もいらっしゃいますが、気楽に来店することが難しかったけれども、店舗体験がしたい!というモチベーションの方々も多いです。そもそも潜在的なニーズがあったという気づきがありました。
オンラインによって、接客できる地域の範囲が拡張できていると言えます。
川添 確かにすでに商品がわかっているようなリピーターの方であれば、オンラインの情報を見て意思決定できますよね。
新規の方、特に相談しながら会話したい人にとっては、どこにいたとしても「プライベートZoom接客」という入り口から入れるのは良いですね。
木村 お客さんが嬉しいと思うこと、ブランドとして求められていること、それをお客様に提供していくしかないです。
現況においてあらゆるブランドは、新規獲得をするよりも、顧客のエンゲージメントやLTVを高めるためのコミュニケーションをする方がいいと思います。そっちの方が価値があるんじゃないでしょうか。今のうちに深いコミュニケーションができたお客様は、店舗が営業できるようになったら来てくれるはずです。
木村昌史がチェーン店を経営していたらどうする?
川添 店舗スタッフがオンライン接客で活躍する姿やそこから生まれるプラスの効果をリアルにイメージできてきました。もし、木村さんがチェーン展開しているアパレル企業の立場だったら、今何をすると思いますか?
木村 僕がチェーン展開しているアパレルだったら、優秀な店舗スタッフのオールスターズのECサイトを作るでしょうね。ECサイトの商品のセレクトも店舗スタッフにやってもらう。
川添 それは面白い!これから少しずつ限られた範囲で、店舗営業を再開できるようになるはずです。その中で、チェーン展開していたら“制約のある店舗”をどう使いますか?
木村 ある程度店舗を再開できたら、店舗は実物チェックの場所にしてしまう。そして、その場のオンライン販売、もしくは、アフターフォローとしてオンラン接客という手もあるかなと思っています。
例えば、次のような感じです。
1.店舗は予約制にする
2.瞬間的には1人だけ接客できるようにする
3.めっちゃ販売力のある店舗スタッフとコンテンツを作る
めっちゃ販売力のある店舗スタッフたちが“売りやすい商品”があるはずなので、編集ライターさんに入ってもらって、商品と提案方法も含めてコンテンツを作成します。そして、もし店舗スタッフが1,000人いたら、1,000人がリツイートしてもらう。逆算すると、スタッフ自身が能動的にリツイートしたくなるコンテンツを作るが大事だと思います。そうすれば、必ずお客様に届くはずです。
川添 木村さんはアイデアの宝庫ですね(笑)!そのやり方だと、組織によるレバレッジがかけられて良いですね。普段のEC部門だと巻き込みづらいですが、今ならやれるチャンスがあるはずです。
木村さんのお話は、本質的で興味深く、学びが多いです。今回もありがとうございました。
木村さんへのインタビューを終えて
コロナ禍で店舗をメインとした小売業が苦境に立たされているのは間違いありません。しかし、特に専門性のある小売業態やブランドにおいて、プロフィットを生み出していた店舗スタッフが活躍できない状況というわけではありません。何か特別な有償ツールがなくとも、自社ECサイトやSNS・Zoomのようなプラットフォームを活用すれば、活躍できる環境を生み出せるはずです。必要なのは、すぐに決めて動き出すこと。
さらに発展するとテクノロジーと人の力が融合できる可能性があります。
例えば上記のDROBE(ドローブ)は、AIのデータや技術とスタイリストのスキルを組み合わせたコーディネート提案を売りにしたECサイトです。こういった事例は数年前からも存在しますが、いまいち業界内では浸透しきれていません。それは、スタートアップ企業はテクノロジーを持っていても、「お客様のリアリティ」を把握できる定性データと売り場をもっていない。一方で、アパレル企業は定性データと売り場を持っていても、テクノロジーに対して寛容ではないからではないかと捉えています。
しかし、Withコロナ、アフターコロナでは、こういった企業間の協力も増えていく可能性があります。その前段階として、「現有戦力をいかす工夫ができるブランド・企業」が増えていけば、我々が“想像する未来”が早めに来るでしょう。一歩を踏み出すことは、今から可能ということです。待っているお客様に、自分たちからオンライン経由でコミュニケーションをとりに行ってみてはいかがでしょうか。
#Withコロナ時代を生き抜くヒント 連載のご紹介↓
第1部
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