アリババによるスマート製造がもたらす「アパレル製造の期待と課題」
全国のEC担当者を応援するECエバンジェリストの川添 隆(Twitter / ラジオ)です。アリババグループが傘下企業を通じて、独自のスマート工場「迅犀(シュンシー)デジタルファクトリー」を提供していくことに対する期待と課題についてまとめてみます。
スマート製造がもたらすアパレル製造の未来と期待
アリババのクラウドやIoT、AIを駆使して構築されたシュンシーデジタルファクトリーでは、「顧客のニーズに対応した生産ラインの構築による量産が可能になる」という期待があります。恐らくは、これを実現するのが2つの仕組みでしょう。
1つ目は、世界最大のECプラットフォームに蓄積されるデータ×AIによるアウトプットの仕組み。これによって、アパレルのトレンド予測→求められる素材の量的な把握→販売量の予測に活用ができるようになるのではないでしょうか。すでに2019年には、アリババのデータを基にしたコレクションも発表されています。
2020年8月の決算書によると、中国における年間アクティブユーザー数は約7億4,200万人で、この膨大なデータを製造にいかせるのは大きな強みなるでしょう。
2つ目は、エンド・ツー・エンドで全経路をデジタル化する仕組み。いくら需要予測ができたとしても、それが製造に反映されなければ意味がありません。そのためには、過去の製造におけるコストや設備稼働状況のデータが蓄積され、新たな製造体制に移行するためのシステムを備えることを前提として、機動的に計画から製造・オペレーションを行う必要があります。シュンシーデジタルファクトリーが具体的に工程管理をどのように行うかは不明ですが、製造工程のほとんどに人の手が必要と言われるアパレル製造を効率化していく仕組みが提供されるということでしょう。
これまでは“賭け”とも言える属人的な需要予測によってアパレルブランドから製造の発注があり、その量と納期を基にして生産ラインが組まれていたという過去の流れに変化をもたらすことは間違いないと感じます。一方で、それがどの程度の範囲まで普及するかがポイントではないでしょうか。
導入資金とコスト回収という課題
シュンシーデジタルファクトリーという仕組みごと提供されていくとすると、これを導入する上での課題は“カネ”に集約されると考えています。
まずは、導入する上での資金はどのように工面するのかということです。もしこれ自体を広く提供していくとすると、リースのような月額負担での導入方法を用意されるはずですが、金額によって導入できる企業の範囲は決まると想像できます。
次にそのコストをどのように回収していくのかというのは大きな課題です。例えば、販売と製造が経営として一体になっているようなケースであれば、MDや販売の精度を上げるために導入するというのは想定できます。一方で、製造のみを行う工場の場合、納入する商品単価に上乗せするというのは、これまでのビジネス慣習を考えると現実的ではないと捉えています。アリババグループもこのような製造がおかれる現況を理解しているはずなので、この課題に対する解決策を考えている可能性もあります。今後の続報に注目したいと思います。
日本で同様の仕組みが提供される可能性は?
日本においてもスマートファクトリーの仕組みを作っていこうという動きはあります。シュンシーデジタルファクトリーと比較した場合、「エンド・ツー・エンドで全経路をデジタル化する仕組み」は実現できる可能性があったとしても、「データ×AIによるアウトプットの仕組み」が弱いということになるでしょう。中国のB2CのECにおいてはTmall(天猫)が過半数のシェアを占めていますが、日本では過半数のシェアを占めるような一強は存在しないからです。
日本で「データ×AIによるアウトプットの仕組み」が使えるようになるには2つの方法が考えられます。
1つ目は日本のブランドがグローバル化すること。それぞれの国では一強が存在することが多いので、日本以外であれば有益なデータが使えるようになるでしょう。
2つ目は競合が結託すること。モールECであれば、Amazonと楽天市場の合算で過半数のシェアを占めるという状況なので、Zホールディングスを加えた3強が基となるデータを提供をしてくれるのであれば実現できるはずです。他にも、ブランド同士、ディベロッパー同士、商社同士が結託するという方法もあります。
どちらのパターンを考えても、残念ながら実現性の観点でピンときませんが、唯一あるとすると「ブランド同士が結託する」というのは可能性はゼロではないと個人的に思います。日本ではこういった動きの兆しが出てきたときが、次の山が動くときなのかもしれません。