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NEWWORLDで、ファッションブランドやECはどんな存在になるのか【ナノ・ユニバース越智将平】

ECエバンジェリストの川添 隆です。#Withコロナ時代を生き抜くヒント を探っていく連載を実施します。

コロナ禍で苦戦が強いられるアパレル業界。その中で、私が最も話しを聞いてみたかった人は、業界屈指で行動力のある株式会社ナノ・ユニバース  越智 将平さんです。

連載第3部は、ナノ・ユニバース越智さんのお考えを基に、Withコロナ・アフターコロナ時代においてブランドやECはどんな存在になる必要があるかについて私の意見をまとめました。

※株式会社ホットリンク主催の大好評イベント「#NEWWORLD2020」でのディスカッションを引用しながらコメントいたします。

<引用:株式会社ホットリンク


スピーカープロフィール

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越智 将平
株式会社ナノ・ユニバース 経営企画本部 WEB戦略部 部長

2002年 (株)ナノ・ユニバース入社。店舗での販売業務を経て、2005年よりECの担当となる。2010年よりWEB事業の責任者として、EC事業の拡大、CRM、デジタルマーケティングを中心に、店舗とECの融合に取り組んでいる。
EC: https://store.nanouniverse.jp/jp/
5月27日(水)15:00~登壇イベント: https://techplay.jp/event/779216


2~3年のチャット運用が売上シェア8%につながる

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ECにはZOZOTOWNのようなECモールと、直営EC(自社EC)の2種類あります。ここにきて顕著なのが、直営ECの伸びです。これまで地道に続けてきた、お客さまへの施策が一気に花開いた印象があります。
そのひとつが、チャット接客です。うちのサイトおよびアプリで、販売員が直接対応するサービスなんですが、ここの売上がわかりやすく伸びています。サイトの売上全体の約8%は、チャット接客での購入です。
これまで、チャット接客は本社社員のしごとでした。今は店舗スタッフがリモートで接客できる準備を進めています。

ナノ・ユニバースは2017年9月に株式会社空色のWeb接客ソリューション「OK SKY」を導入し、その後社内スタッフによる友人対応にも力を入れてきました。以前、越智さんとパネルディスカッションをした際には「1年ほど運用してきて売上がとれるようになってきた。今はチャットご利用のお客様から、スタッフのご指名が入るようになっている。」とお聞きしました。2~3年の準備がコロナ禍で花開いたということでしょう。

先日、親会社のTSIホールディングスの発表によると、スマホ対話アプリ「HERO」を使い、遠隔で接客するサービスを始めるようです。

こういったグループのリソースを使って、今後は店舗スタッフによるリモート接客が進んでいくのでしょう。

ちなみに、第1部でも触れた“オンラインでの接客”は、ブラウザ・アプリでのチャットツールによるものだけでなく、いくつか方法はあります。下記のラジオでもご紹介しています。


「ECでできること」を広げる必要がある

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やはりみんな口をそろえてEC、とは言っています。しかし今後、ファッションECが飽和状態に向かうと思います。そうなった時、すべてのECの売上が伸びるわけではありません。店舗では得られた情報がECで補完できないと、購入には至りません。ECそのものを磨いていかないと、生き残れないとは思います。

「実店舗+EC」領域に携わってきた私から見ると、ECサイトは「店舗があった上での補完的な存在」だと感じてきました。店舗で提供できる情報や体験を、ECサイトで提供するまでは至っていないと思います。

一方で、オンラインからスタートしているD2Cブランドなどは、「どうも、はじめまして。私は〇〇と申します」ということから、ブランドや商品のコンテンツ、そして「利用している時の不具合は、いつでも気軽に言ってくださいね」ということまでが、オンラインで完結しています。

基本的に、ECサイトはファクトの情報が並んでいる売場。もちろん、デジタルチャネルだからできるサービス提供も可能です。さらに、オフライン(店舗)で提供できる情報や体験を、ECサイトに盛り込んでいくことをあきらめてはいけませんね。磨いていかないと。


スタッフのご指名、スタッフの持つ定性情報をいかす

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アパレルではお客さまとスタッフとの関係が一期一会になりがちですが、美容室のように来店時、スタッフさんを予約することができればどうでしょう。こういう課題には、ITが介在する余地が十分残っている気がします。

現時点のアパレルでも「この人(スタッフ)から買いたい」というニーズはあります。一方で、組織が大きくなることや働き手不足により、一期一会の関係になりやすくなってきたのは事実だと捉えています。

今後「より信頼できる人から買いたい」という意向が強まるとしたら、一人一人のスタッフがキャラクターを発揮できて、ご指名が入るような人づくりと、テクノロジーによる仕組みづくりが必要になるでしょう。私もその流れが来ると思っています。

また、店舗スタッフはお客様の定性情報を持っています。顧客のパーソナルな情報だけでなく、商品の押し方、接客のトンマナ・空気感、お悩みの引き出し方など。このような情報は、ビジネスや組織が大きくなると、見過ごされてきたり、特に蓄積されなかったりしてきました。しかし、商売において最も重要な情報であることは間違いありません。これらを集約するような仕組みを必要になっていくでしょう。
※ナノ・ユニバースでは接客の定性情報を残す取り組みもされています。


崖っぷちの“強制理解”による早期化

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今回の変化は、コロナになったから起きたこととは、どうしても思えません。日本の少子高齢化のもっと進んだ未来が、単純に短縮化して引き起こされただけだととらえています。
地方人口や労働人口が減少するなかで、小売としてのあり方を変えようと、どの企業・個人も戦略を練ってきました。コロナを通じて、そんな戦略への強制理解が生まれた気がします。
実は販売員にチャット接客をしてもらう案は、ずっと社内で却下されていたんです。「スマホをいじりながらの接客は、お客さまに失礼だ」と。しかしコロナ禍によって危機感が生まれたことで、チャネルを問わず自分たちの能力を発揮しないといけないという認識に変わりました。
個人的には、未来に描いていた店舗を、より短い期間で実現できそうだと思っています。

オールユアーズ木村さんもおっしゃっていますが、みんな「コロナで変わったこと、変わること」に敏感になっています。一方で、現時点で小売×デジタルの領域における先進的なことは、過去にその企業が取り組んでいたことに比重を置いた(強化した)取り組みが多い印象です。また、社内で通っていなかった案が通りやすくなったこともあるでしょう。

中国の事例として、「店舗スタッフはスマホをいじっているのをよく見る」という話しを聞いたことがあります。チャットやライブ配信などで、オンラインでコミュニケーションをとっているからでしょう。今オンラインで接客中なのであれば、そちらを優先するのは合理的です。

日本では無条件で「オフラインの目の前のお客様が優先」となっていました。しかし、今後は店舗販売以上にオンラインで販売できるスタッフもより増えてくるでしょう。オンライン、オフライン関係なく「目の前のお客様を優先」する文化が早まるかもしれません。


ブランドは人らしくなれるか?

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これからの社会で、たくさんのことが変わると思います。特に僕たちをはじめ出店拡大でチャネルをつくり、ブランド性を保ってきた店舗は「ECだけでそれを担保できるのか?」という課題にさらされるでしょう。ここで生き残るには、根本的なリブランディングが必要です。
具体的には、もっとユーザーに近いブランドを作らないといけないということです。参考となるブランドは、やはりオールユアーズさんかな。先ほどの話もそうでしたが、コロナ禍でもほとんど動じていないじゃないですか。以前から顧客とつながって洋服を作っていた人たちは、この状況を恐れていません。

Withコロナ、アフターコロナにおいては、ブランドがユーザーに近いか?信頼できるか?の重要度が増すと思っています。特に、コロナ収束後に買い物を再開する時には、信頼できるブランドの優先順位が高くなると考えています(3.11後に市場は回復してきても、ブランドごとの好不調に明確な差が出たため)。

もしコロナがなかったら10回買い物をしていたと仮定しましょう。特にアパレルのような嗜好品であれば、現時点でその回数は減っているはずでしょう(各社店舗の売上をECで補填できているわけではないため)。では、10回が4回に減ったとすると、コロナ収束後に6回分を上乗せして買い物をするでしょうか?

私の答えはNO。瞬間的に余計に買う可能性はありますが、なくなった機会をそのまま上乗せするとは思えません。本当に必要なものや、「ここから買いたい」というブランドから選ばれるのではないかと考えています。そのため、情緒的にユーザーと密着度の高いブランド、人のように信頼できるブランドにしていくことが最重要と言えるでしょう。


絶望感だけでなく期待感も高まっている

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ファッション業界は今、多くの人が絶望に包まれています。経営悪化はもちろん「ニューワールドでは洋服の優先順位がさらに下がるんじゃないか」という懸念も、その要因の1つです。
ですがECの内訳を見ると、意外にもコートなど「今それを買って、どこに着ていくの?」という商品が売れているという実態があります。
「コロナが収束したらどこへ行こうか」など、ステイホームでもファッションを想像している方はたくさんいます。絶望感だけでなく、より外出に対する期待感が高まっている状態でもあるわけです。
コロナ禍を悲観的にとらえるのではなく、いいサービス・いい商品を作っていけば、ニーズは十分高まるはずです。皆でこの苦難を耐え忍び、雨のやむ日を待ちましょう。

店舗が主戦場だったアパレル企業が厳しいのは間違いありません。この難局を乗り越える必要があります。一方で、これまでのビジネスモデルから脱皮するチャンスでもあります。

また、越智さんがおっしゃるように、思いを馳せる期間とも言えます。ブランドとしてその期待感を高めることも可能ですし、Twitterでも共感する人がいました。

この状況の中で、それぞれのブランドの“らしさ”がよりギュっと濃縮されること望みます。


不安定な時代だからこそ、“問いを立てる力”が重要

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変わらない側面もあると思います。EC化で店舗が必要なくなるかと言えば、決してそれはないでしょう。EC化を進めるメリットが多い業種と、実店舗だからこそできることが多い業種はそれぞれありますが、洋服はその中間に位置しています。
今まで購入したことのないブランドを、いきなりネットで買うのって怖いじゃないですか。生地感や、羽織ってみた時のシルエットなど、実際に着ないと分からないことも多いです。
EC化は進めつつも、店舗で着られる選択肢も提示できるようにする。両方のいいところを機能として持ち合わせインフラを整えた企業が、生き残ると思います。

この部分は私も聴いていましたが、越智さんは「すべてオンライン化したときに、ユーザーは幸せになるか?」と言われました。私は日ごろから「人間は合理性だけに左右される生き物ではない」と認識しているので、この問いに対して納得しました。しかしそれよりも、問いが非常に本質的であったことに、私は驚き突き刺さりました。

問いがなければ答えは生まれてきません。最良の問いは、ビジネスも大きく動かすと思っています。Withコロナ・アフターコロナ時代はより不安定な時代になるかもしれませんが、こういう時こそ“問いを立てる力”の重要性”を再認識しました。


連載コンテンツ

第1部

第2部

第4部

第5部

第6部

第7部


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