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店舗とECで連携をしていきたい!あまりおカネをかけずに出来る事とは?

※「ZOEの一問一答編」は、主に店舗メインの企業におけるEC事業を対象に、過去の寄稿記事を再編集したシリーズです。

ECエバンジェリストの川添 隆です。コロナ禍で店舗を主体に事業をしている企業は、オンラインチャネルの重要性だけでなく、顧客が欲しいモノを手に入れることができる“オムニチャネル”の重要性を痛感されたことでしょう。

アメリカの小売りでは、「BOPIS(Buy Online Pick-up Instore、ボピス)」と言われる「オンラインで商品の注文・決済をして、店舗に引き取りに行く」取り組みが一般化してきているようです。宅配品質が高い日本においては、宅配に依存してしまった背景も考えられますが、ショッピングセンターやコンビニなどをハブとして、BOPISの拡大余地は大いにあるでしょう。

BOPISも含め、ビフォーコロナから小売事業者としてオムニチャネル やOMO(Online Merges with Offiline)を推進する上での悩み事は後を絶ちません。コロナ禍によって「デジタル推進を時期が前倒しされた」と言われていますが、企業の課題や取り組む難易度を見ながら、着実に一歩一歩進めていくのが確実だと考えています。今回は、大きな投資をする前に確実に進めていくべきことをまとめました。


はじめに(こんな人にオススメ/記事の概要)

今回は、下記のようなコンテンツです。

対象:オムニチャネルやOMOを推進していきたい方、大きな投資をする前に今からできることを確認したい方
内容:店舗とECで連携をしていく上で、あまりおカネをかけずに出来る事の考え方や事例を示すコンテンツ

オムニチャネル推進の全体像やOMOとの違いに関しては、下記にまとめております。


大きなシステム投資の前に、小さな実例を作るほうがよい

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顧客情報連携、ECにおける倉庫・店舗の在庫引き当て、ECでも店舗でもお客様の要望に合わせてモノを移動できるようなオペレーション構築、行動データに合わせたサービス・コミュニケーション展開などには大きな投資が必要です。こういった基盤構築は、「小売における既定路線」になりつつあり、ソリューションや費用の調査、収益シミュレーションをされている企業がかなり増えています。一方で、「果たしてうまくワークするか?収益はあがるのか?」という不安により意思決定を躊躇して、なかなか前に進まないという話しを耳にします。また、実際に投資はしたもののうまくワークしないケースも見受けられます。

ある程度向かう方向性が決まっているので、いつかは着手する必要があります。ただし、事業の成長のために投資をするわけですが、投資額が大きくなればなるほどリスクも大きくなりますよね。そのために、「これで進めるぞ」と決断する時点で、実務の手触り感やリアリティを持っている方が、新たなシステムやオぺーレーションがワークする確率が高まるのは言うまでもありません。多少非効率であっても、大きな投資をする前に実施ができるカタチつくることが望ましいです。特に小売業においては、システムやマーケティングの観点からだけでなく、実務を行う店舗スタッフやECスタッフがリアリティをもって実行できるという観点が重要です。


顧客情報を活用するための第一歩とは

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往々にして“べき論”から入ると、「〇〇を行うには、このシステムやツールを導入すべき」という言及になりがちです。しかし、むしろ手触り感がないままこの主張をすると、自身の首を絞める確率が高くなります。「今ある環境や道具を使ってできることはないか?」と考えることが、前に進む第一歩につながります。

例えば、店舗とECを展開していて、それぞれで顧客・購買情報を保持している状態があったとします。システムを連携するしないに関わらず、顧客情報を引き出す上では、下記のようなことを考慮し意思決定する必要があります。

〇 Why?:なぜ接客で顧客情報を参照する必要があるか?
〇 How?:データを読み解くのに専門知識は必要か?どんな情報を活用すれば、お客様の期待に応えるか?
〇 Where?:どこで情報を使うか?
〇 When?:どの程度のリアルタイム性が必要か?
(接客の時間はどれくらいか?/待ってもらえるか?)
〇 Who?:誰に情報のアクセス権限を付与するか?

Why?から書いているのは、最も重要だからです。企業は“データを使いたい願望”がありますが、「なぜ使う必要があるか?どんな仮説があるか?」が具体化しているケースは多くありません。データを使いたくても、単なるおせっかいであればマイナスの体験になりかねません。一方で、例えば常連のお客様が前回と同じスタッフに接客を受けている時に、「前に買ったアレ」と言われた“アレ”は、実は自ブランドの他の店や自社ECで買われているかもしませんよね。

データは地図のようなもので、企業や担当者の意思がコンパスになるのです。小さなニーズであっても、まずはとことん現象を深ぼるようにしましょう。また、活用する以前にとれていないデータもあります。例えば、店舗での購入客がどんな認知経路で来店しているか(Googleアナリティクスで言えば参照元)。こういったデータの取得から始めることで、次の具体的なアクションにつながります。実際、メガネスーパーの全店舗ではアンケートとして取得しています。

リアルタイム性が問われないのであれば、一部の店舗から一部に権限を付与し、データの読み解き方をレクチャーすれば、例えば上顧客の方の接客にある程度活用することはできます。この場合は、「店舗スタッフがデータを見る時間」が必要になってくるので、比較的接客時間が長い商材であればすぐに取り入れられるでしょう。
また、コロナ禍の流れも踏まえて、上顧客向けに“来店予約&事前アンケート”を導入し、予約をいただいたお客様のご要望と購買履歴を予習しておくと、短時間でも濃い接客ができるでしょう。販売の現場でデータを少しずぐ活用していくことで、How?の解像度を上げていくと、実際のシステム構築やツール導入の際に役立つことは間違いありません。


実績の手ごたえと工数増加とがセットになったらシステム投資へ

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前述の運用は煩雑になりがちで、多店舗展開している企業には限界があります。実績につながる手ごたえは出てきたけど、手間を解消したい。そういった課題を解決するための投資が必要になってくるわけです。この段階で、「投資はしない(ゼロ)」と限定してしまうと、発展性がなくなってしまいますし、投資をしなければ企業の成長もありません。

手運用でつくった実績の再現性が担保できるなら、この時点で大規模な投資をすることもありでしょう。まだそこまでの確証がなければ、まずは小さく投資をしてさらなる実績を作り、ブラッシュアップをするために追加投資をしていくという考え方をぜひ持っていただきたいです。そうすることで、できることは確実に広がり、実績も伴っていきます。また、投資シミュレーションで不明瞭だった指標が明らかになってきて、シミュレーションのリアリティが高まっていきます。

オムニチャネルやOMOを進めていく上で重要なことは、「お客様のニーズ」を捉えることです。投資を抑えつつ「お客様のニーズ」を捉えることが出来た事例を2つご紹介します。


事例1ガールズアパレル:「いつでも・どこでも買える」を叶える

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1つ目の事例は、私の前職のガールズアパレルです(2010~2013年)。旗艦ブランドは旧来の109系ブランド(ギャルブランド)で、だいたい2-3年で“ブランドの卒業”があることを想定し、いわゆる顧客情報連携は優先順位を劣後させました。その代わり、即効性の高い「情報や販売環境の同期」に対して徹底的に注力しました。

その鍵となったのが、「商品の販売開始日」を店舗と自社ECとで同じタイミングにしたことです。

それ以前は、販売開始日が1~2週間ズレていることで、ECで店舗と同じキャンペーンをやろうとしても、ほとんど実施ができていませんでした。また、当時の新作入荷の告知ツールのメインは、メルマガやブログでしたが、販売日がズレていると店頭入荷は伝えられても、ECの商品URLを掲載することはできません。さらに、ブランドは店舗での販売から3~7日ほどで追加発注をジャッジしていたので、そこに乗っかることができませんでした。瞬発力が試されるマーケットとしては、全てが致命的な状況でした。

「商品の販売開始日」を店舗と自社ECとで同じタイミングにしたことで、自社EC売上の向上とUXの向上どちらにも寄与したと捉えています。
この取り組みを開始直後から自社ECの売上は伸び、1か月後あたりには、取り組み以前の売上前年比100%前後だったのが、売上前年比150%ほどになりました。これは店舗向けメルマガやLINE@でEC商品も掲載できるようになったことでの集客アップ、商品イメージが伝わりやすくなったことによるCVRアップにつながった結果だと考えています。
またこれは推測ですが、日常的に店舗と自社ECが同じ商品販売開始、キャンペーン、セールなどが同じタイミングで実施されていることが周知されていったことにより、「今みた情報が店舗、自社ECに関わらずどこでも同じ条件で購入できる」というブランドへの信頼感につながったのではないかと捉えています。
最終的には、「新作入荷通知」を取得するために、店舗よりも数日早めに自社ECに掲載しました。

私が離れるまで、店舗とECの顧客情報やポイント連携には着手できずじまいでした(2013年時点で店舗の在庫表示、ノベルティが選べる、LINE@の積極活用、ショールーミング型店舗などはやりました)。一方で、上記のような取り組みを軸したことで、1年半で自社EC会員の年間LTVは1.2倍になり、“店舗とECの併用者のLTV”は“店舗のみ”と比べると2倍になりました。

アパレル業界の中でも、さらに瞬発力が問われるマーケットだったことが前提ですが、こういったケースもあるということです。現在においても、「商品販売開始日」を店舗と自社ECで同じタイミングにする手法は有効であり、むしろそのニーズは高まっているでしょう。しかし、実施できているアパレル企業の方が少ないのが事実です。これには、企画や生産部門との綿密な連携が必須で、そのハードルが高いのです。

2020年現在でもし私がアパレルのEC責任者をやっているなら・・・
自社ECは店舗よりも早く掲載し、スタッフスタートを使ってサンプル着用でコーディネート撮影を準備し、スタッフコーディネートが揃った状況で自社ECでの販売開始を全商品で行っているはずでしょう


事例2メガネスーパー:「店舗で商品を受け取りたい」を叶える

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続いて、2つ目の事例はメガネスーパーです。メガネスーパーのEC売上のうち約95%がコンタクトレンズです。2017年からは店頭向けのコンタクトレンズ コマースアプリを展開していますが、それ以前は店舗受け取りや、ECの商品ページ(主にメガネ)内に取扱店舗を表示するなど、最初はスモールスタートで投資をして、都度ブラッシュアップをしてきました。

ここでのスモールスタートは、「システム改修において必要最低限な要件のみ構築して、自動化せず手運用からスタートする」という意味です。店舗受け取りの仕組みを例に解説します。

まず、在庫の引き当てはEC在庫でまかない、EC部門から受け取り店舗へ配送するようにしました。もちろん、店舗の在庫を引き当てたり、物流から店舗への定期配送で在庫を手配したほうが効率は良いのです。しかし、システム投資が必要だが費用対効果がわからないという堂々巡りになると考え、上記のようにな仕組みで開始しました。

また、お客様が受け取り方法を「店舗受取」と選んだ場合、各店舗に受注の連絡をするのは、お客様に送付する受注完了メール(個人情報は非掲載)を店舗にも送付するという仕組みでスタートしました。本来は店舗向けのメールフォーマットも必要でしたが、サービス自体に影響がないので、約2年間はこの方式で運用していました。

2020年現在、メガネスーパー公式通販サイトでは、通常配送以外にオフラインチャネルでの受け取りは店舗とコンビニを用意しています。コンビニ受け取りを追加してからは、オフラインでの受け取りはコンビニがメインになっています。それでも毎月平均的に店舗受取が利用されているのも事実です。そこには、新しい商品を手に取ってみたい、販売員からアドバイスが欲しいなど「メガネスーパーの店舗で受け取りたい」ニーズが存在すると捉えています。
ただし店舗受け取りの件数自体は少ないため、ほぼアナログの運用はまだ変えておりません。


「店舗とECとの連携」が目的ではない

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ここまで2つの事例を通じて、「お客様のニーズを具体的に把握し、今できることからお客様のニーズに応えていく」ことについてご紹介してきました。1つの結果が出れば、そこに想定していたこととのギャップが見える化でき、次の改善につながっていきます。改善の結果、利益につながることが証明できれば、投資の合理性が見えてきます。

一方で、オムニチャネルやOMO、DXなどのキーワードが出てくると、これ自体が手段化してしまうことが最大の落とし穴です。今回のテーマに関しても、「店舗とECの連携」が目的ではありません。商売環境の中にデジタル入れ込むことで、顧客の期待に応え、企業の大義を果たしていくために推進していくわけです。先進的な企業ほど、常に顧客理解に飢えています。

何か迷ったらお客様のニーズに立ち返る、お客様のニーズを見ることをオススメします。


※本記事の引用・二次利用について

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原文 / ECエバンジェリスト 川添 隆(Twitter:@tkzoe
テキスト編集協力 / 遠藤 迅(Twitter:@jinjinsaisai
総合EC支援会社に勤務する20歳。

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